毎年トラクターで田んぼを耕しているものの、どうしても四隅に土が寄ってしまったり、田んぼ全体が波打ってしまったりと、均平作業にお悩みではありませんか。稲の生育を左右する水管理を楽にするためにも、田んぼを平らにすることは非常に重要です。この記事では、そもそもなぜ高低差ができてしまうのか、そのトラクターが波打つ原因から、具体的な田んぼを平らにする方法まで、基本から応用までを網羅的に解説します。まずは正確な高低差の測定から始め、適切な機械の操作で効率的に高低差をなくす方法を見ていきましょう。また、畑を平らにする際の考え方との違いにも触れながら、米作りの要となる均平作業の全てをお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事で分かること
- 田んぼに高低差が生まれる根本的な原因
- トラクターや代かき機を使った均平作業の具体的な手順
- 四隅に土を寄せずに平らに仕上げるプロのコツ
- 均平作業で注意すべきポイントと失敗しないための対策
田んぼを平らにする方法の基本と準備
- 均平作業の重要性と目的
- トラクター作業で波打つ原因とは
- 水を張って高低差を測定する
- 畑を平らにする作業との違い
- 荒代かきで凹凸を修正する
均平作業の重要性と目的

田んぼの均平作業は、美味しいお米を安定して収穫するための、いわば稲作における最も基本的な土台作りの工程です。もし田んぼが平らでなければ、水管理の非効率化、稲の生育不良、雑草の繁茂といった様々な問題が発生し、最終的には収穫量や米の品質に直接的な悪影響を与えてしまいます。ここでは、均平作業がなぜそれほどまでに重要視されるのか、その科学的な理由と目的を深掘りして解説します。
最大の目的は、圃場内の水深を均一に保ち、すべての稲が平等な環境で生育できるようにすることです。田んぼに高低差が存在すると、水を張った際に必然的に水深が深い場所と浅い場所が生まれます。水深が2~3cm程度の浅い場所では、土の表面が露出しやすく、太陽光が直接当たるため地温が上昇し、コナギやホタルイといった水田雑草の発生を助長してしまいます。逆に、水深が5cm以上になるような深い場所では、植え付けられたばかりの若い苗が完全に水中に没してしまい(いわゆる「水没」状態)、光合成が阻害されるだけでなく、根への酸素供給も不足し、最悪の場合は枯死に至ります。また、枯れずとも根の伸長が悪くなるため、その後の生育が著しく遅れる原因となるのです。
このように、圃場内で生育にばらつきが生じると、追肥や除草剤散布のタイミングを計るのが非常に難しくなり、圃場全体としての管理作業が極めて非効率になります。田んぼ全体が均一な水深に保たれていれば、全ての稲が同じスタートラインから同じ条件で成長できるため、生育ステージが揃い、結果として品質の高いお米を安定して、かつ効率的に収穫することに直結するのです。
均平作業がもたらす多角的なメリット
- 水管理の劇的な効率化:圃場全体の水深が均一になることで、水口からの入水量と水尻からの排水量の調整が非常に容易になります。
- 生育の均一化と品質向上:全ての苗が最適な水深と環境下で育つため、生育のばらつきが解消され、米粒の大きさや品質が安定します。
- 除草剤効果の最大化:多くの水稲用除草剤は、効果を発揮するために適切な水深が定められています。均平な田面は、薬剤が均一に拡散するのを助け、効果を最大限に引き出します。
- 病害虫リスクの低減:生育が不揃いな稲は、病害虫に対する抵抗力が弱まる傾向があります。均一な生育は、圃場全体の健康状態を維持し、リスクを低減させます。
- 収穫作業の効率化と機械への負荷軽減:稲の生育と成熟度が揃うことで、コンバインによる刈り取り作業も一度でスムーズに進み、作業効率が向上します。
言ってしまえば、均平作業は田植え後のあらゆる作業の成否を左右する、非常に重要な初期投資であり、高品質な米作りを目指す上での絶対条件なのです。
トラクター作業で波打つ原因とは

毎年、丁寧に作業しているつもりでも、トラクターで耕うんした後の田んぼがまるで波打ったようになってしまう。これは多くの稲作農家が直面する悩みです。この現象には、トラクターの構造と操作方法に起因するいくつかの明確な原因が存在します。原因を科学的に理解し、対策を講じることが、平らな田んぼづくりの第一歩となります。
最も一般的かつ最大の原因は、トラクターの「旋回」時に発生する土壌の物理的な移動です。トラクターが圃場の端で方向転換(Uターン)する際、操舵する前輪がその回転軸の内側と外側で移動距離に差を生じさせます。このとき、外側の前輪は内側の車輪よりも速く、そして力強く回転し、結果として圃場の土を外側へと押し出してしまうのです。そして、その後ろを通過する後輪が、押し出された土を踏み固めることで、「枕地(まくらじ)」と呼ばれる硬い土の盛り上がりが形成されます。この一連の動作が圃場の四隅で繰り返されることで、土はどんどん外周部へと寄せ集められ、中央部分が相対的に低くなる、いわゆる「すり鉢状」の圃場が完成してしまうのです。
また、トラクター後部に装着されたロータリーの構造的特性も、土の偏りを助長する一因です。ヤンマーなどの主要メーカーが解説しているように、一般的なロータリーの耕うん爪は、トラクターの進行方向と同じ向きに回転(正転)します。このため、耕された土は物理法則に従い、後方へとはじき飛ばされる性質を持っています。したがって、常に同じ方向にばかり耕うん作業を繰り返していると、土は徐々に一方向へと偏って堆積してしまうのです。
「親戚から逆方向に回ってみろと言われた」という経験談は、この土の偏りを物理的に修正するための非常に的確なアドバイスです。一度偏ってしまった土の流れを、逆方向の作業によって元に戻そうという考え方ですね。ただし、単に逆回転するだけでは不十分で、後述する正しい走行ルートやロータリーカバーの効果的な使い方を組み合わせることが、問題解決の鍵となります。
湿田や粘土質土壌での作業は特に注意が必要
水分を過剰に含んだ「湿田」や、排水性の悪い粘土質の土壌では、トラクターのタイヤがスリップしやすくなります。タイヤが空転すると、その部分だけが深く掘り下げられてしまい、新たな凹凸を生む原因となります。これが凹凸をさらに悪化させる悪循環につながるため、圃場が適度に乾いた「適潤状態」で作業を行うことが、均平作業の大原則です。
これらの理由から、ただ闇雲にトラクターを圃場で走らせるだけでは、田んぼを平らにするどころか、意図せずして高低差を自ら作り出してしまう可能性があるということを、作業者は常に意識しておく必要があります。
水を張って高低差を測定する

田んぼの高低差を効果的に修正するためには、まず「圃場のどこが高く、どこが低いのか」という現状を正確に把握することが不可欠です。高価な測量機器がなくても、自然の物理法則を利用した「水盛り(みずもり)」の原理を応用し、水を定規代わりにする方法が最も簡単で、かつ誰にでも実践できる確実な測定方法です。
この方法は非常にシンプルで、田んぼにごく浅く水を張るだけです。水は重力に従い、常に水平な面を形成しようとする性質があります。この「レベル(水平)」の基準となる水面を利用して、圃場全体の高低差を視覚的に、かつ直感的に把握するのです。
具体的な確認手順とポイント
- 入水:田んぼの水口からゆっくりと水を入れ始めます。この時、一気に大量の水を流し込むと、水の勢いで土が動いてしまう可能性があるため、穏やかに注水することが重要です。水量は、圃場全体に水が行き渡る程度で、できるだけ浅く張るのがポイントです。土の表面がうっすらと水に覆われる程度が理想的です。
- 静置と観察:圃場全体に水が行き渡ったら、一度入水を止め、風や波が収まるまでしばらく待ちます。水面が鏡のように静かになったら、圃場全体を見渡せる畦の上などから、じっくりと状態を観察します。
- 高低差の判断:
- 水面から土が島のように突き出ている場所、あるいは水に浸かっていない場所 → これらが圃場の「高い場所」です。
- 周囲と比較して、明らかに水の色が濃く見え、水深が深い場所 → これらが圃場の「低い場所」です。
- マーキング:後の土壌移動作業を効率化するために、特定した高い場所に竹の棒や杭などの目印を立てておくことを強く推奨します。これにより、トラクター乗車中でも目標地点を容易に確認できるようになります。
この基本的な測定は、代かき作業の前に行うのが最も効果的です。代かきの際には、水と土が混ざり合って泥状になるため、この高低差がさらに明確に、そして顕著に見えてきます。その段階で最終的な微調整を行うことになります。
より高精度な測定を実現する専門機器
数百ヘクタール規模の大規模な圃場や、より精密な均平作業が求められる場面では、「レーザーレベラー」という専門機械が活用されます。これは、圃場に設置したレーザー発光器から送られる水平なレーザー光を、トラクターに装着した受光器が検知し、その高低差情報を基に作業機(ブレード)を自動制御して土をならしていく高性能なシステムです。個人での所有はコスト的に現実的ではありませんが、近年では地域の農業法人やJAが共同で導入し、レンタル事業を行っているケースも増えています。
いずれにしても、まずは自分の圃場の状態を、水を張って自分の目で直接確かめるというアナログな作業が、効果的な均平作業への最も重要な第一歩となるのです。

畑を平らにする作業との違い
「田んぼを平らにする」ことと「畑を平らにする」ことは、一見すると同じ「整地作業」のように思えますが、その根本的な目的と、それによって求められる土壌の物理的構造には決定的な違いがあります。この違いを正確に理解しておくことは、それぞれの作物に最適な生育環境を整える上で極めて重要です。
両者の最大の違いは、水を意図的に「溜める(湛水)」のか、それとも積極的に「抜く(排水)」のかという、水管理に対する思想の根幹にあります。ご存知の通り、稲作を行う田んぼは、その生育期間の大部分において圃場に水を溜めておく必要があります。そのため、貴重な水資源が無駄に地下へ浸透(漏水)しないように、トラクターの自重による踏み固めや、代かき作業によって意図的に、耕した土(作土層)の下に「耕盤(こうばん)」と呼ばれる硬く、水を通しにくい層を形成させることが重要となります。
一方で、多くの野菜や穀物を栽培する畑では、過剰な水分は根の呼吸を妨げ、「根腐れ」を引き起こす最大の原因となります。そのため、水はけの良さが極めて重要視されます。畑作においては、耕盤のような硬い層はむしろ生育の妨げとなるため、土をできるだけ深く、ふかふかに耕し、水や空気が通りやすい「団粒構造」が発達した土壌を目指します。このように、目的が正反対であるため、平らにする方法や使用する機械、求められる仕上がりも自ずと異なってくるのです。
比較項目 | 田んぼの均平(水稲作) | 畑の均平(畑作) |
---|---|---|
水管理の主な目的 | 水を均一に、かつ長期間溜めること(湛水・保水) | 過剰な水を速やかに排水し、適度な水分を保つこと(排水・保水) |
理想的な土壌構造 | 作土層の下に水を通しにくい耕盤(硬盤層)を形成する | 土がふかふかで水はけと通気性の良い団粒構造を発達させる |
均平作業の最終仕上げ | 代かき作業で土を泥状にし、表面をなめらかに固める | 耕うん後、レーキやローラーで表面を軽くならし、ふかふかな状態を保つ |
重要視される点 | 漏水を防ぐ緻密さと、ミリ単位の水平性 | 根の伸長を妨げない柔らかさと、水たまりができない排水性 |
結論として、田んぼの均平作業は、単に圃場の表面を平らにするだけでなく、稲作特有の「湛水栽培」を可能にするための機能的な土壌構造(耕盤)を構築するという、より高度で複雑な目的を持っていると言えるでしょう。この点を理解することが、高品質な米作りへの道を開きます。
荒代かきで凹凸を修正する

代かきは、田植えができる状態に圃場を仕上げるための最終工程ですが、その作業精度と効率を上げるために、多くの場合「荒代(あらしろ)」と「植代(うえしろ)または本代(ほんじろ)」の2段階に分けて実施されます。このうち、1回目に行われる「荒代かき」が、圃場に残る大きな凹凸をダイナミックに修正し、均平な田面を形成するための重要な役割を担っています。
荒代かきは、一般的に田植えの3日から7日ほど前に行われる作業です。春先の耕うん作業を終え、田んぼに水を張った後、トラクターのロータリーで土と水を大きくかき混ぜます。この段階での主な目的は、耕うんだけでは砕ききれなかった大きな土塊を細かく粉砕し、稲わらなどの有機物を土中にすき込み、そして田んぼ全体の高低差を大まかに合わせることにあります。
荒代かきにおける高低差修正の具体的な手法
荒代かきの段階で、前述した「水を張って高低差を測定する」方法を実践し、圃場の地形を把握します。そして、水が十分に張られていない高い部分の土を、ロータリーを使って積極的に低い部分へと移動させるのです。この「土寄せ」作業を圃場全体で行うことにより、大きな高低差をこの段階でかなり解消することができます。荒代かきである程度平らにしておくことで、後の植代かきの負担が大幅に軽減され、より精度の高い仕上げが可能になるのです。
ただし、この工程で最も注意すべき点は、土を過度に「練りすぎない」ということです。土を必要以上に細かくし、クリーム状にしてしまうと、土の粒子が密になりすぎて土壌中の酸素が欠乏します。このような還元状態の土壌では、植えられた苗の根が呼吸できず、活着(新しい環境に根付くこと)が悪くなったり、その後の根張りが阻害されたりする原因となります。農林水産省の指針でも、土壌の物理性維持の重要性が指摘されています。特に排水性の悪い粘土質の土壌では、意識的に表層だけを柔らかくし、下層にはある程度の大きさの土塊が残るような「粗仕上げ」を心がけるのが理想です。
荒代かきは、あくまで本格的な仕上げ(植代かき)の前段階であると捉え、圃場全体のバランスを整えることに主眼を置き、丁寧かつ大胆に作業を進めましょう。
実践!機械を使った田んぼを平らにする方法
- 土を移動させる高低差をなくす方法
- 作業で活躍する機械とアタッチメント
- 四隅に土を寄せないトラクターのコツ
- ロータリーカバーの調整で均一に
- 丁寧な代かきで仕上げるポイント
土を移動させる高低差をなくす方法
田んぼに生じてしまった高低差を解消するための最も基本的、かつ物理的な原理は、「高い場所の土を削り取り、その土を低い場所へ運んで埋める」という、非常にシンプルなものです。この土の移動作業を、いかに効率よく、かつ正確に、手持ちの農業機械で行うかが、均平作業成功の鍵となります。ここでは、多くの農家が所有しているトラクターを活用して、この土壌移動を実践する具体的な方法を詳細に解説します。
最も手軽に、そして追加投資なしで実践できる方法は、トラクターのロータリーの動力を切り、作業機自体を排土板のように使って土を「引きずる」というテクニックです。
ロータリーを使った「土引き」の具体的な手順
- PTO(動力伝達装置)をオフにする:まず、トラクターのPTOスイッチを「切」にします。これにより、ロータリーの爪は回転せず、固定された状態になります。この操作を忘れると、土を移動させるどころか、その場で耕うんしてしまうので絶対に確認してください。
- 適切な場所にロータリーを降ろす:事前に確認しておいた圃場の高い場所へトラクターを移動させ、そこで油圧レバーを操作してロータリーを地面に降ろします。降ろす深さは、一度に移動させたい土の量によって調整します。
- 低速でゆっくりと前進:ギアを低速に入れ、トラクターをゆっくりと土を運びたい低い場所へ向かって前進させます。この時、急発進や高速走行は避け、土をこぼさないように慎重に操作します。
この一連の動作により、ロータリーがブルドーザーのブレード(排土板)のような役割を果たし、進行方向に土を抱え込んだまま移動させることができます。これを、水面や目印を基準に、高い場所から低い場所へ向かって何度も繰り返すことで、圃場の高低差は徐々に解消されていきます。
この方法は、今お持ちのトラクターとロータリーですぐに実践できる、非常に有効な手段です。ただし、一度に運べる土の量には限界があるため、焦らず根気強く続けることが何よりも大切です。1年で完璧にしようとせず、数年かけて毎年少しずつ圃場を理想の状態に近づけていく、という長期的な視点を持つと良いでしょう。
肥料散布後の土引き作業には最大限の注意を
特に注意が必要なのは、この土引き作業を、元肥などの肥料を圃場に散布した後に行う場合です。土を移動させると、当然ながらその土に含まれる肥料分も一緒に移動してしまいます。結果として、圃場内で肥料濃度に極端な偏りが生じ、肥料が過剰になった場所では稲が徒長して倒伏しやすくなり、逆に肥料が少なくなった場所では生育不良に陥る可能性があります。可能な限り、肥料を散布する前に、ある程度の高低差修正を済ませておくのが理想的な手順です。
もちろん、予算に余裕があれば、専門業者に依頼して大型の建設機械で耕盤から作り直してもらったり、前述のレーザーレベラーで精密に均平にしてもらったりする方法が最も確実です。しかし、まずは自分でできるこの方法から試してみて、その効果を実感することをお勧めします。
作業で活躍する機械とアタッチメント

田んぼの均平作業において、トラクターが主役であることは間違いありませんが、その後部に装着するアタッチメント(作業機)の種類によって、作業の効率、精度、そして最終的な仕上がりが劇的に変わります。ここでは、均平作業で主に使用される2大アタッチメント、「ロータリー」と「ドライブハロー」について、それぞれの構造的な特徴、長所と短所を比較しながら詳しく解説します。
ロータリー:汎用性の高い標準装備
ロータリーは、太い軸に取り付けられた多数の耕うん爪を回転させることで、耕起(土を耕す)、砕土(土塊を砕く)、整地(土をならす)という一連の作業を同時に行うことができる、非常に汎用性の高いアタッチメントです。ほとんどのトラクターに標準で装備されているため、追加の投資なしで幅広い作業に使える点が最大の魅力です。もちろん、代かき作業もこの一台で完結させることが可能ですが、後述するドライブハローと比較すると作業幅が狭いため、往復回数が多くなりがちです。また、完全に均平な田面を作り上げるには、オペレーターの熟練した技術と経験が要求される側面もあります。
ドライブハロー:均平作業のスペシャリスト
ドライブハロー(通称ハロー)は、その名の通り、代かきと整地作業に特化して設計された専用のアタッチメントです。最大の特徴は、その圧倒的な作業幅です。トラクター本体の幅を大きく超えるワイドな設計(移動時には左右に折りたたむ構造)になっており、4メートルから6メートル以上のモデルも珍しくありません。これにより、圃場を往復する回数を大幅に削減でき、作業時間の大幅な短縮につながります。多数の短い爪が高速で回転し、土の表面を細かく、かつ丁寧にかき混ぜることで、ロータリーでは実現が難しい、非常に均一でなめらかな「鏡のような」仕上がりを実現します。
比較項目 | ロータリー | ドライブハロー |
---|---|---|
主な用途 | 耕うん、砕土、整地、代かき(多目的・汎用) | 代かき、整地(専用機) |
作業幅 | 比較的狭い(トラクター本体幅と同程度) | 非常に広い(本体幅の2倍以上も可能) |
均平性能 | オペレーターの技術に依存する部分が大きい | 極めて高い。均一な仕上がりを容易に実現 |
作業効率 | 標準的 | 非常に高い。作業時間を大幅に短縮可能 |
コスト | 標準装備の場合が多く、追加コストは不要 | 別途購入が必要で、比較的高価 |
最適な場面 | 小規模な圃場、コストを抑えたい場合、多様な作業を1台でこなしたい場合 | 大規模な圃場、高い均平精度を求める場合、作業の省力化・効率化を重視する場合 |
結論として、手持ちのロータリーでも本記事で紹介するテクニックを駆使すれば、十分に満足のいくレベルで田んぼを平らにすることは可能です。しかし、経営規模の拡大を目指す方や、より高いレベルの均平精度、そして作業の省力化を求めるのであれば、ドライブハローへの投資は十分にその価値があると言えるでしょう。どちらの機械を使用するにしても、その構造的な特性と能力の限界を正しく理解した上で、最適な操作を行うことが最も重要です。

四隅に土を寄せないトラクターのコツ
多くの稲作初心者が直面し、そして長年の経験者でさえ悩むことがある「田んぼの四隅に土が寄ってしまう」という問題。この根深い問題を解決するためには、トラクターの操作方法、特に耕うん作業時における走行ルート(回り方)の設計が決定的に重要になります。ここでは、土の偏りを物理的に最小限に抑えるための、論理的かつ具体的な方法を詳細に解説します。
基本戦略:内側から攻め、外側で仕上げる
最も効果的で、かつ基本的な戦略は、圃場に入っていきなり外周から回り始めるのではなく、まず内側の主要なエリアから耕し始め、徐々に作業範囲を外側へ広げていく方法です。そして、最後に仕上げとして圃場の外周を丁寧に数周することで、それまでの作業、特に旋回時にできてしまった土の盛り上がり(枕地)をきれいに削り取り、修正することができます。
具体的な手順の一例を、ステップバイステップで見ていきましょう。
- スタート位置の選定:圃場の出入り口からトラクターを入れ、その対角線上に位置する隅(最も奥の隅)から作業を開始します。これにより、作業の終盤で出入り口周辺をスムーズに仕上げることができます。
- 内側エリアの往復耕うん:まず、四方の畦(あぜ)からロータリーの作業幅の約2.5〜3列分ほど内側のエリアを、直線的に往復しながら耕していきます。この段階では、圃場の中央部分を先に、かつ徹底的に耕すことに集中します。
- 外周の仕上げ(1周目 – 畦ぎわ):中央部分の耕うんが完了したら、次に一番外側の、畦に最も近いラインを1周します。この時、圃場の角に到達したら、ハンドルを切る前に一度トラクターを少しバックさせ、そこから90度旋回する「切り返し」を行うと、隅々までロータリーの爪を届かせることができます。
- 外周の仕上げ(2周目以降 – タイヤ痕の消去):最後に、まだ耕されていない内側のライン(最初に開けておいた2.5〜3列分のエリア)を1〜2周して、全体の作業を完了させます。この時、1周目の作業で付いたトラクターのタイヤ痕(わだち)を、ロータリーで綺麗に消していくように意識すると、プロのような美しい仕上がりになります。
旋回時の鉄則:切り返しを怠らない
旋回する際は、決して一度で無理にUターンしようとせず、少しバックを入れてからハンドルを切る「切り返し」を徹底する癖をつけましょう。これにより、旋回半径を最小限に抑えることができるため、枕地が不必要に大きくなるのを防ぎ、タイヤで圃場を荒らしてしまうリスクも大幅に低減できます。
この一連の方法は、畑を耕す際にも応用できる、トラクター耕うんにおける非常に基本的かつ重要なテクニックです。「できるだけ一度耕した場所の上を走らないようにする」こと、そして「旋回時にできた土の山は、次の周回で必ずならす」という意識を常に持つことが、田んぼ全体を均一な平面に仕上げるための絶対的な鍵となります。
ロータリーカバーの調整で均一に
トラクターのロータリー操作において、多くのオペレーターがその重要性を見落としがちなのが、ロータリー後部に装着されている「ロータリーカバー(リヤカバー)」の役割と調整機能です。このカバーは、単なる安全装置や泥除けではなく、耕うんされた土の流れを能動的にコントロールし、均平な仕上がりを実現するために不可欠なパーツです。この機能を理解し、うまく調整することで、均平作業の精度を格段に向上させることができます。
通常の状態では、ロータリーの回転によって後方へ勢いよく飛ばされた土は、このカバーの内側に当たって砕かれ、その場に落下します。しかし、カバーの高さを意図的に低めに設定し、あえてカバーと回転するロータリーの間に土を積極的に溜め込むことで、非常に興味深い物理現象を引き起こすことができます。
カバーとロータリーの間に溜まった土は、後方への逃げ場を失い、次々と送り込まれてくる土によって押し上げられます。そして、最終的には回転するロータリーの上を乗り越えて、ロータリーの前方へと落下するようになります。これは、通常は後方へ一方的に移動するはずの土を、強制的に前方へ還流させることを意味します。この物理原理を応用することで、進行方向への土の偏りを抑制し、特に問題となりやすい圃場の四隅に土が過剰に堆積するのを効果的に防ぐことが可能になるのです。
この高度なテクニックを最大限に活かすためのポイント
カバーとロータリーの間に土をしっかりと溜め込むためには、ロータリーが十分な量の土を抱え込む必要があります。そのため、特に土を前方へ移動させたい圃場の四隅や、土が高くなっているエリアだけを、一時的に耕うん深度を深く設定して耕すことが、このテクニックを成功させるための重要なポイントとなります。ロータリーカバーを支えるスプリングの強さや、土の湿度によって効果は変わってくるため、圃場の状態を確認しながら、最適なカバーの高さや耕うん深度を見つけ出す試行錯誤が必要です。
これは間違いなく上級者向けのテクニックと言えますが、ロータリーの構造と土の動きを注意深く観察しながら試してみる価値は十分にあります。近年では、YouTubeなどの動画プラットフォームで「トラクター 四隅 土寄せ」「ロータリー 均平」といったキーワードで検索すると、多くの熟練農家の方々が自身のテクニックを実践動画として公開しています。これらの動画を参考に、自分のトラクターと圃場に合った方法を探求してみるのも良いでしょう。
ロータリーカバーは、決して受動的なパーツではありません。土の流れを自在に操るための能動的なツールとして、その機能を理解し、使いこなすことができれば、あなたの均平作業のレベルは間違いなく一段階上のものになるでしょう。
丁寧な代かきで仕上げるポイント

これまでの耕うんと荒代かきによって圃場の大まかな凹凸が修正されたら、いよいよ田植えに向けた最終仕上げの工程、「植代(うえしろ)または本代(ほんじろ)」と呼ばれる、精度の高い代かき作業に入ります。この最後の工程をいかに丁寧に行うかで、田んぼの仕上がりの美しさと、その後の苗の活着、生育が大きく左右されます。
植代かきを実施するタイミングは、田植えの2日から3日前が最適とされています。このタイミングが非常に重要で、作業が早すぎると、田植え当日までにせっかく柔らかくした土が固く締まってしまったり、除草効果が薄れて新たな雑草が生えてきてしまったりします。逆に、田植えの直前すぎると、土が十分に落ち着いておらず、田植機の走行によって発生する水流で、植え付けたばかりの繊細な苗が根付かずに浮き上がって流れてしまう「浮き苗」の発生リスクが著しく高まります。
最高の仕上がりを実現する「植代かき」の三大ポイント
- 「ごく浅水」での作業を徹底すること
植代かきにおける水深は、土の表面が8割ほど見えている状態、水深にして約1cm程度の「ごく浅水」が理想です。水が少ないことで、水面に浮遊しやすい稲わらや雑草の断片を効率よく土中にすき込むことができ、除草効果が高まります。また、何よりも圃場の土の表面状態を目で直接確認しながら作業できるため、わずかな高低差も見逃さず、より均一で精度の高い作業が可能になります。 - 土を「練りすぎず」、最適な硬さを目指すこと
前述の通り、土をトロトロのクリーム状になるまで過度に練りすぎてしまうと、土壌構造が破壊され、土中の酸素が極端に欠乏します。このような土壌では、苗の根が健全に呼吸できず、活着やその後の生育に深刻な悪影響を及ぼすことがあります。トラクターの走行速度は時速2〜4km程度に設定し、 PTOの回転数も中速程度に抑え、表面がなめらかで、かつ適度な弾力を持つ「羊羹(ようかん)」程度の硬さに仕上がることを目指しましょう。 - 「枕地」の処理を完璧に行うこと
仕上げの代かき作業においても、トラクターが旋回する場所には必ず枕地ができます。代かきは同じ場所を何度も往復できるという利点を最大限に活かし、この枕地を全周にわたって丁寧に、かつ徹底的に潰すことが重要です。圃場の隅々まで、一切の妥協なく平らに仕上げるという強い意志が、最終的な仕上がりの質を決定づけます。
土壌の特性に合わせた微調整を
圃場の土壌の質によって、最適な代かきの方法は微妙に異なります。一般的に、水が抜けやすい砂質の土壌では、漏水を防ぐために比較的入念に、そして丁寧な代かきが推奨されます。逆に、もともと水持ちが良い粘土質の土壌では、練りすぎによる土壌の過還元を防ぐために、比較的軽めに、そして手早く仕上げるのが良いとされています。ご自身の圃場の土壌特性をよく理解し、それに合わせた微調整を行うことが重要です。
丁寧な代かきは、これから約半年間、稲が健やかに育つための快適なベッドを作る作業です。ここまでの全ての工程を丁寧に行うことで、その後の田植え、水管理、そして収穫に至るまでの全ての作業が、格段に楽で、そして楽しいものになるはずです。

正しい田んぼを平らにする方法の総括
この記事では、多くの稲作農家が直面する「田んぼの均平作業」という課題について、その重要性から、高低差が生まれる原因、そしてトラクターを活用した具体的な解決テクニックまでを、多角的に詳しく解説しました。最後に、本記事でご紹介した重要なポイントを、実践的なチェックリストとしてリスト形式で振り返ります。
- 田んぼの均平作業は稲の生育と水管理の成否を分ける最も重要な基本作業である
- 圃場に高低差があると生育ムラ、雑草の繁茂、水管理の非効率化を招く
- 高低差が生まれる主な原因はトラクターの旋回と耕うん方法による物理的な土の偏りである
- 作業前には必ず浅く水を張り、圃場全体の正確な高低差を目で見て把握する
- 田んぼの整地は水を溜めるための「耕盤」作りが目的であり、排水を重視する畑の整地とは根本的に異なる
- 最初の工程である「荒代かき」で、圃場全体の大きな凹凸を大胆に修正しならしておく
- 最終仕上げの「植代(本代)かき」で、田植えに向けて表面をなめらかに仕上げる
- 高低差修正の絶対的な原則は「高い場所の土を削り、低い場所へ運ぶ」ことである
- トラクターのロータリーの動力を切り、排土板のように使って土を引きずる方法が有効である
- ドライブハローは作業幅が広く、より効率的で高精度な整地が可能な専用アタッチメントである
- 耕うん時の走行ルートは、圃場の内側から始め、最後に外周を仕上げるのが土を偏らせない基本である
- 四隅に土を寄せないためには、無理なUターンを避け、丁寧な切り返し旋回を徹底することが重要である
- ロータリーカバーを低めに調整し、土を意図的に前方へ還流させる高等テクニックも活用する
- 仕上げの代かきは、早すぎず遅すぎず、田植えの2〜3日前に最適なタイミングで完了させる
- 土を過度に練りすぎず、苗の活着を助ける「羊羹」程度の適度な硬さを保つことが最終的な目標である