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農業の神様とは?日本の神社の神々を一覧で解説!名前や祭も紹介

日本の暮らしと深く結びついてきた、農業の神様。その存在に興味を持ち、祀られている神社や神様の名前を知りたいと思っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、日本の神話における農耕神や最高神から、地域に根差した田の神様とはどのような存在なのか、宇迦之御魂神荼枳尼天といった具体的な神名、さらにはギリシャ神話のクロノスとの比較まで、神々を一覧で分かりやすく解説します。また、豊作を祈る伝統的な祭についても触れていきます。

この記事でわかること

  • 日本の代表的な農業神とその特徴
  • 世界(ギリシャ神話)の農耕神との比較
  • 「田の神様」や「祭」など具体的な信仰のかたち
  • 農業神が祀られている全国の主な神社
目次

日本で信仰される様々な農業の神様

  • 古事記に記された穀物の起源
  • 日本の農業神の代表的な一覧
  • 神話に登場する神々の名前
  • 農耕神であり最高神でもある存在
  • 稲荷信仰と宇迦之御魂神荼枳尼天

古事記に記された穀物の起源

私たちが日常的に口にする食物の始まりは、日本最古の書物『古事記』の中で、実に衝撃的な神話として描かれています。それは、ある女神の「死」から穀物が生まれたという物語です。

この神話の中心となる神は大宜都比売神(オオゲツヒメノカミ)という女神です。ある時、高天原(天上の世界)から追放された須佐之男命(スサノオノミコト)がオオゲツヒメに食物を求めました。すると彼女は、自身の鼻や口、そして尻から様々な食材を取り出し、調理してスサノオに差し出したのです。

しかし、その様子を見ていたスサノオは「汚い方法で食事を出すとは何事だ」と激怒し、オオゲツヒメを斬り殺してしまいます。すると、殺された女神の亡骸から、次々と新たな命が芽生えました。

女神の亡骸から生まれたもの

  • 頭:蚕(かいこ)
  • 目:
  • 耳:粟(あわ)
  • 鼻:小豆(あずき)
  • 陰部:
  • 尻:大豆

これらの種を、別の神である神産巣日神(カミムスヒノカミ)が取らせ、地上の穀物の起源になったとされています。この物語は「ハイヌウェレ型神話」と呼ばれ、殺された神の体から作物が生まれるという話は、インドネシアなど世界各地に見られるものです。日本の神話が、より複合的な内容を持っていることが分かります。

女神の体から食物が生まれるという発想は、大地が作物を育む母なる存在であるという古代の人々の自然観を反映しているのかもしれませんね。

日本の農業神の代表的な一覧

日本には「八百万の神」という言葉がある通り、非常に多くの神様が存在します。その中でも、特に農業や食物に関わる代表的な神様を一覧にまとめました。ご利益や祀られている神社を知ることで、より身近に感じられるでしょう。

神様の名前 主なご利益 代表的な神社
天照大御神
(あまてらすおおみかみ)
五穀豊穣、国土安泰、生命力向上 伊勢神宮(内宮)
豊受大御神
(とようけのおおみかみ)
五穀豊穣、産業振興、食事守護 伊勢神宮(外宮)
宇迦之御魂神
(うかのみたまのかみ)
五穀豊穣、商売繁盛、家内安全 伏見稲荷大社
大宜都比売神
(おおげつひめのかみ)
五穀豊穣、食物守護 上一宮大粟神社
賀茂別雷神
(かもわけいかづちのかみ)
五穀豊穣、厄除け、雷除け 賀茂別雷神社(上賀茂神社)
速瓶玉命
(はやみかたまのみこと)
農業振興、五穀豊穣 国造神社

このように、一口に農業の神様といっても、太陽のように万物を育む存在から、食物そのものを司る神、雷のように自然のエネルギーを象徴する神まで、その役割は実に多様です。

神話に登場する神々の名前

神様の名前には、その神が持つ力や性格が込められています。ここでは、特に農業と関わりの深い神様の名前とその由来について、いくつか掘り下げてみましょう。

豊受大御神(とようけのおおみかみ)

「ウケ」という言葉は、古語で「食物」を意味します。つまり、「豊かな食物の偉大な神」というのが、この神様の名前の由来です。元々は丹波地方で信仰されていた食物・穀物の神様でしたが、後に伊勢神宮の外宮(げくう)に迎えられ、内宮の天照大御神の食事を司る「御饌都神(みけつかみ)」としての役割を担うようになりました。神様の料理番という、非常に重要なポジションにいる神様です。

賀茂別雷神(かもわけいかづちのかみ)

名前にある「ワケ」は「若い」、「イカヅチ」は「雷」を意味します。つまり、「若々しいエネルギーに満ちた雷の神」と解釈できます。雷は時に災害をもたらしますが、同時に雨を呼び、稲の成長に不可欠なものとして神聖視されてきました。この神様は、雷の持つ強力なエネルギーで五穀豊穣をもたらす、パワフルな農業神といえるでしょう。

宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)

この神様の名前も「ウカ」=食物、「ミタマ」=霊、という構成です。「食物の霊の神」という意味を持ち、特に稲の霊格化された神様とされています。「稲が生る(いねなり)」が転じて「いなり」になったという説もあり、全国の稲荷神社の総本宮である伏見稲荷大社のご祭神として広く知られています。

農耕神であり最高神でもある存在

日本の神々の中で最高神と位置づけられるのが、天照大御神(あまてらすおおみかみ)です。彼女は太陽を司る神様ですが、なぜ最高神が農耕神としての側面も持っているのでしょうか。

その理由は、日本の文化の根幹に稲作があったからに他なりません。米作りには、何よりも太陽の光と熱が不可欠です。太陽なくして稲は育たず、人々の生活は成り立ちません。そのため、古代の人々は太陽の力を命の源そのものとして崇め、その神格化である天照大御神を最も重要な神様と考えたのです。

天照大御神と農業の関わり

  • 天岩戸神話:アマテラスが岩戸に隠れると世界は闇に包まれ、作物が育たなくなった。これは太陽がなければ農業が成り立たないことを象徴しています。
  • 天孫降臨:アマテラスは孫のニニギノミコトが地上に降りる際、三種の神器と共に「稲穂」を授けました。これは稲作が国家の基盤であることを示しています。
  • 伊勢神宮での祭祀:伊勢神宮では、収穫された初穂を神様に捧げる「神嘗祭(かんなめさい)」が最も重要なお祭りとされています。

このように、天照大御神への信仰は、太陽の恵みによって成り立つ稲作文化と分かちがたく結びついています。彼女は、ただ天上に輝く太陽神であるだけでなく、日本の農業と人々の命を支える、根源的な農耕神でもあるのです。

稲荷信仰と宇迦之御魂神荼枳尼天

全国に約3万社あるといわれ、私たちにとって最も身近な神社の一つが「お稲荷さん」です。その総本宮である京都の伏見稲荷大社のご祭神が、前述の宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)です。

元々、宇迦之御魂神は五穀豊穣を司る農耕の神様でした。しかし、時代が下るにつれて、そのご利益は農業だけにとどまらなくなります。特に、中世以降に大きく影響を与えたのが、インド由来の仏教の尊格である荼枳尼天(だきにてん)との習合です。

神仏習合によるご利益の拡大

荼枳尼天は、人の死を予知し、その心臓を食らうとされた夜叉(鬼神)でしたが、仏教に取り入れられる中で福をもたらす天部の神へと変化しました。この荼枳尼天が白い狐に乗る姿で描かれたことから、同じく狐を神使(お使い)とする稲荷神と結びつけられるようになったのです。

注意点:稲荷神=狐ではない

よく誤解されがちですが、狐は稲荷神そのものではなく、あくまで神様のお使い(眷属)です。稲荷寿司の油揚げは、この狐の好物であることからお供えされるようになりました。

この神仏習合の結果、宇迦之御魂神は荼枳尼天の持つ福徳や財をもたらす力を吸収し、五穀豊穣に加えて商売繁盛産業興隆家内安全といった、より広範なご利益を持つ神様として信仰を集めるようになりました。農耕の神様が、時代の変化とともに人々の多様な願いに応える存在へと発展していった、非常に興味深い例といえます。

世界に伝わる農業の神様と信仰

  • ギリシャ神話の農耕神とクロノス
  • 農家がもてなす田の神様とは
  • 全国の農業神を祀る代表的な神社
  • 豊作を祈り収穫を感謝する祭

ギリシャ神話の農耕神とクロノス

農業の営みと、それに対する信仰は日本だけのものではありません。目を世界に転じると、各地の神話に個性豊かな農業神が登場します。その代表例が、ギリシャ神話のデメテルです。

デメテルは穀物と豊穣を司る女神であり、人々の生活に欠かせない農業の守護者として崇拝されていました。彼女にまつわる神話で最も有名なのが、娘ペルセポネとの物語です。

四季の起源となった母の悲しみ

冥界の神ハデスに最愛の娘ペルセポネを誘拐されたデメテルは、深い悲しみに暮れ、女神としての仕事を放棄してしまいます。その結果、地上からは作物が一切育たなくなり、人間も神々も困り果てました。
事態を重く見た最高神ゼウスの仲裁により、ペルセポネは一年のうち一定期間だけ地上に戻ることが許されます。デメテルは娘と再会できる春になると喜び、大地は再び芽吹き、花が咲き乱れます。しかし、娘が冥界に戻る秋になると悲しみに沈み、大地は枯れ果ててしまうのです。
この神話は、作物が育ち、やがて枯れていく四季のサイクルそのものを説明する物語として語り継がれてきました。

豆知識:デメテルの父、クロノス

デメテルの父は、ティタン神族の王であったクロノスです。クロノスは、ローマ神話において農耕の神「サトゥルヌス」と同一視されました。英語で土曜日を意味する「Saturday」は、このサトゥルヌスの日に由来しています。父もまた、農業と深い関わりを持つ神だったのです。

農家がもてなす田の神様とは

有名な神社の神様とは別に、日本各地の農村には、より地域に密着した「田の神様」への信仰が古くから根付いています。これは特定の名前を持つ神というより、それぞれの田畑に宿り、稲の生育を見守ってくれる精霊のような存在です。

この「田の神様」への信仰が、非常にユニークな形で現存している儀式が、石川県能登地方に伝わる国指定重要無形民俗文化財「あえのこと」です。

見えない神様への究極のおもてなし

「あえのこと」は、収穫を終えた農家が、一年間の感謝を込めて田の神様を自宅に招き、ご馳走を振る舞うという儀式です。最大の特徴は、その神様の姿が誰にも見えないという点にあります。

一家の主人は、田んぼで神様を家に招く口上を述べた後、あたかもそこに神様がいるかのように振る舞います。目の不自由な神様を気遣い、段差や滑りやすい場所では声をかけ、手を引く仕草をしながら家まで案内します。家に着けば、囲炉裏の最も良い席にご案内し、一品一品料理の説明をしながら、丁寧にお風呂とお食事を勧めるのです。

目には見えない存在を、心から信じ、敬い、最高のおもてなしをする。そこには、自然への深い畏敬の念と、収穫への純粋な感謝の気持ちが表れていますね。

弥生時代の遺跡から、神様を運ぶ乗り物と考えられている鳥や舟の形をした木製品が出土することからも、人々が田畑に宿る見えない存在を意識し、大切にしてきた歴史の長さをうかがい知ることができます。

全国の農業神を祀る代表的な神社

農業の神様への感謝を伝えたい、ご利益にあやかりたいと思ったとき、どの神社を訪れればよいのでしょうか。ここでは、全国に数ある神社の中から、特に農業と関わりの深い代表的な神社を3つご紹介します。

伏見稲荷大社(京都府)

全国に約3万社ある稲荷神社の総本宮です。ご祭神は宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)を中心とする五柱の神様で、古くから五穀豊穣の神として信仰されてきました。現在では商売繁盛のご利益でも有名で、朱色の鳥居が連なる「千本鳥居」は圧巻です。
(参照:伏見稲荷大社 公式サイト)

伊勢神宮 外宮(三重県)

皇室の御祖先であり、日本の総氏神とされる天照大御神を祀る内宮(ないくう)に対し、外宮(げくう)は食物や産業の守護神である豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀りしています。豊受大御神は天照大御神のお食事を司る神様であり、農業をはじめあらゆる産業の発展を見守ってくださる存在です。

賀茂別雷神社(上賀茂神社)(京都府)

京都で最も古い神社の一つで、世界文化遺産にも登録されています。ご祭神は、雷の力で厄を祓い、あらゆるものを生成発展させるご神徳を持つ賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)です。古くから五穀豊穣、厄除けの神として朝廷からも篤い信仰を受けてきました。
(参照:賀茂別雷神社(上賀茂神社)公式サイト)

豊作を祈り収穫を感謝する祭

神様への信仰は、神社への参拝だけでなく「祭」という形で、よりダイナミックに表現されてきました。祭は、人々の祈りや感謝を神に伝えるための重要な儀礼であり、地域のコミュニティを結びつける役割も果たしています。

初午祭(はつうまさい)

2月の最初の午(うま)の日に行われる、稲荷神社の祭礼です。稲荷の神様が稲荷山に降臨したのがこの日であったという伝承に由来し、五穀豊穣や商売繁盛を祈願します。江戸時代には「伊勢屋、稲荷に、犬の糞」という言葉が流行るほど稲荷社が多く、初午詣は大変な賑わいを見せたといいます。

新嘗祭(にいなめさい)

毎年11月23日に行われる宮中祭祀で、天皇がその年に収穫された新しい穀物(新穀)を神々に供え、自らも食すことで、収穫に感謝し、国家国民の安寧を祈願する儀式です。全国の神社でも行われており、現在の「勤労感謝の日」のルーツとなっています。これは、収穫物への感謝が、働くことそのものへの感謝へとつながっていることを示しています。

日々の感謝:日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)

伊勢神宮の外宮では、1500年間一日も欠かすことなく、毎日朝夕の2回、神様にお食事をお供えする「日別朝夕大御饌祭」というお祭りが行われています。特別な日だけでなく、日々の食事に感謝するという日本人の精神性の原点がここにあります。

これらの祭は、自然の恵みへの感謝という、人間にとって根源的で普遍的な感情が、洗練された儀礼として現代にまで受け継がれていることを教えてくれます。

暮らしに根付く多様な農業の神様

  • 日本の穀物起源は神の死と再生の神話に描かれる
  • オオゲツヒメは鼻や口から食物を出したとされる女神
  • 天照大御神は太陽神として稲作に不可欠な存在
  • 豊受大御神は天照大御神の食事を司る食物の神
  • 宇迦之御魂神は全国の稲荷神社に祀られる稲の神
  • 稲荷信仰は後に仏教の荼枳尼天と結びついた
  • 賀茂別雷神は雷の力で五穀豊穣をもたらす神
  • ギリシャ神話ではデメテルが代表的な農耕の女神
  • デメテルの父は農耕神と同一視されるクロノス
  • 田の神様は地域ごとに根付いた農耕の精霊的存在
  • 奥能登の「あえのこと」は目に見えない神をもてなす儀式
  • 初午は稲荷神が降臨した日とされ豊作を祈る祭
  • 新嘗祭は天皇がその年の収穫を神に感謝する儀式
  • 農業神は五穀豊穣のほか商売繁盛など多様なご利益を持つ
  • 神話や祭を通じて古代の人々の自然観や祈りを知ることができる

 

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