「田んぼの中干しをしないとどうなるのだろう?」と、稲作における重要な工程について疑問をお持ちではないでしょうか。そもそも中干しとは何か、その目的を正しく理解することは、美味しいお米を育てる上で欠かせません。適切な中干し時期や正しいやり方を知らないと、稲の生育に影響が出てしまうこともあります。また、作業が早すぎると発生するデメリットや、中干し後に肥料をまくとどうなるかについても気になるところです。この記事では、中干ししないとどうなるのかという根本的な疑問にお答えし、水管理の目安まで、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説していきます。
- 中干しをしない場合のリスクが分かる
- 適切な中干しの時期と期間の目安が分かる
- 正しい中干しの手順と注意点が分かる
- 中干し後の健全な稲の育て方が分かる
田んぼの中干しをしないとどうなる?基本と理由を解説
- そもそも田んぼの中干しとは?
- 田んぼで中干ししないとどうなる?
- 中干しをしないことのデメリット
- 最適な田んぼの中干し時期
- 中干しを始めるのが早すぎると?
- 稲の生育を促すガス抜きの効果
そもそも田んぼの中干しとは?

中干しとは、稲の生育の途中で一度、田んぼの水を意図的に抜いて、田面の土を乾かす作業のことを指します。これは、古くから受け継がれてきた日本の稲作において、非常に重要な水管理技術の一つです。
田植えをしてからしばらくの間、田んぼは水を張った「湛水(たんすい)」状態を保ちます。これは、苗が活着(根付くこと)し、初期の成長を促すために不可欠です。しかし、ある程度成長が進んだ段階でこの中干しを行うことで、稲と土壌環境に様々な好影響を与え、その後の生育を健全に導くことができるのです。
具体的には、田植えから約1ヶ月が経過し、稲の茎が盛んに増える「分げつ期」の終わりごろに開始するのが一般的です。この作業によって、稲の成長に意図的に適度なストレスをかけ、より強く、収量性の高い稲を育てるための重要な土台を築きます。
中干しが持つ4つの重要な目的
- 過剰な分げつの抑制:茎が無駄に増えすぎる「過剰分げつ」を止め、穂が付く有効な茎に栄養を集中させます。これにより、米粒の充実度が高まります。
- 根の活性化と伸長促進:土壌を乾かすことで、根が水分と酸素を求めて地中深くに伸びるのを促します。これにより、倒伏に強い丈夫な稲が育ちます。
- 土壌環境の劇的な改善:土に酸素を供給し、根の生育を阻害する硫化水素などの有害ガスを大気中に放出させ、根が健康に育つ環境を整えます。
- 地盤の硬化による作業性向上:収穫期に2トン以上にもなるコンバインなどの重機がスムーズに走行できるよう、地面を固めて作業効率を高める目的もあります。
このように、中干しは単に水を抜くという単純作業ではなく、その後の稲の品質、収穫量、そして収穫作業の効率までを左右する、科学的な根拠に基づいた重要な栽培技術と言えます。
田んぼで中干ししないとどうなる?
結論から申し上げると、田んぼで中干しをしない場合、稲がひ弱で病気になりやすい「軟弱徒長(なんじゃくとちょう)」の状態に陥り、収穫量の減少や品質の低下に直結する可能性が極めて高まります。
中干しを行わない場合、田んぼは常に水で満たされた状態が続きます。この過保護な環境は、一見すると稲にとって快適に思えるかもしれませんが、実は様々な問題を引き起こす温床となるのです。
まず、根が地表近くの浅い部分にしか張らなくなります。常に水分が豊富にあるため、根が苦労して地中深くへ伸びていく必要性を感じないからです。浅く張った根は、稲の体をしっかりと支えるアンカーの役割を果たせず、少しの風雨でも倒れやすくなってしまいます。さらに、土壌中の酸素が慢性的に不足し、根の活動が鈍くなる「根腐れ」を引き起こしやすくなるのです。
中干しをしない場合に起こりうる主な問題
中干しという重要な工程を省略すると、以下のような複数の問題が連鎖的に発生するリスクがあります。
- 根が浅くしか張らず、台風や大雨で稲が倒れやすくなる(倒伏)。
- 土壌中の酸素不足と有害ガスの発生により、根が傷み生育が止まる(根腐れ)。
- 無駄な茎ばかりが増え、米粒に栄養が行き渡らず未熟米が増える(品質低下)。
- 過密状態と湿気で病害虫が発生しやすくなる(いもち病、紋枯病など)。
- 地面がいつまでもぬかるみ、秋のコンバインでの収穫作業が極めて困難になる(作業効率の悪化)。
これらの問題は、一つ一つが収量や品質に悪影響を及ぼします。そのため、水はけが極端に悪い圃場など、特別な理由がない限り、中干しは現代の稲作において必須の作業とされています。
中干しをしないことのデメリット

前述の通り、中干しをしないことには数多くのデメリットが存在します。ここでは、収量や品質に特に深刻な影響を与える4つのポイントについて、さらに深掘りして解説します。
過剰分げつによる品質低下
中干しをしないと、稲は水の豊富な環境で次々と新しい茎(分げつ)を増やし続けます。これを「過剰分げつ」と言います。一見、茎が多い方が収穫量も増えそうに思えますが、実際はその逆の結果を招きます。茎が増えすぎると、株全体が過密状態になり、葉が重なり合って光合成の効率が落ちます。また、限られた栄養が多くの茎に分散してしまうため、一本一本の茎が細く弱々しくなります。その結果、穂に十分な栄養が行き渡らず、登熟(米が実ること)が不十分になり、小さなお米や未熟なお米(屑米)が多くなってしまうのです。これは米の等級や食味の低下に直結します。
根腐れのリスク増大
田んぼの土が常に水で満たされていると、土の中の酸素が極端に不足する「還元状態」が強まります。酸素がなければ、稲の根は正常な呼吸ができず、エネルギーを生み出せません。さらに、このような嫌気的な状態では、土壌中の微生物の働きによって、稲の根にとって猛毒となる硫化水素などの有害ガスが発生しやすくなります。この有害ガスが根の細胞を破壊し、根の養水分吸収機能を低下させる「根腐れ」を引き起こすのです。根が傷むと、稲は生育不良に陥り、最悪の場合は枯れてしまいます。
稲の倒伏
中干しをしない田んぼでは、根が浅くしか張りません。加えて、土壌も常に水を吸って軟弱な状態です。このような脆弱な土台の上で稲が成長し、出穂後に穂が実って重くなると、自らの重さを支えきれなくなります。特に、収穫期に台風や長雨に見舞われると、いとも簡単に倒れてしまいます。稲が倒伏(とうふく)すると、コンバインでの収穫が困難になるだけでなく、穂が水に浸かって発芽してしまったり(穂発芽)、病原菌に感染しやすくなったりと、品質を著しく損なう原因となります。
収穫作業の効率悪化
秋の収穫作業では、コンバインのような大型で重い農業機械が田んぼに入ります。中干しをしていない田んぼは、収穫期になっても地面がぬかるんでおり、非常に地盤が緩い状態です。このような状態では、コンバインがスムーズに走行できず、タイヤが空転したり、ひどい場合には湿田にはまって動けなくなる(スタックする)こともあります。そうなると、救出に多大な時間と労力がかかり、作業計画が大幅に遅れてしまいます。作業効率の低下は、そのまま経済的な損失につながります。
実際に、地盤が緩い田んぼでの収穫作業は本当に大変です。機械の操作に普段以上に気を遣う必要がありますし、時間も燃料も余計にかかってしまいます。中干しは、美味しいお米を作るためだけでなく、秋の作業を安全かつスムーズに進めるための重要な準備作業でもあるのです。
最適な田んぼの中干し時期
中干しの効果を最大限に引き出すためには、適切な時期(タイミング)を逃さずに行うことが非常に重要です。開始が早すぎても遅すぎても、稲の生育に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重な判断が求められます。
一般的に、中干しを開始するのに最適な時期は、田植えから30日~40日後、または1平方メートルあたりの茎数が目標穂数(例えば400本/㎡)に達した頃とされています。株単位で見る場合は、1株あたりの茎数が20~25本になった頃が目安となります。
これは、稲が収穫に必要な穂の数を確保した後に、それ以上増える無駄な茎(無効分げつ)の発生を抑える「過剰分げつ抑制」の効果を狙うためです。このタイミングを的確に捉えるには、田んぼの中の数か所で定期的に茎数を数え、生育状況を把握することが大切です。
品種や地域による時期の違いについて
中干しの具体的な時期は、栽培しているお米の品種(早生・中生・晩生)や地域の気候、田植えの時期によって大きく異なります。以下の表はあくまで一般的な目安として参考にし、ご自身の田んぼの稲の生育状況をよく観察して判断することが最も重要です。
品種のタイプ | 代表的な品種 | 中干し開始の目安(田植え後) | 特徴 |
---|---|---|---|
早生(わせ)品種 | コシヒカリ、あきたこまち | 約30日~35日 | 生育スピードが速いため、早めの判断が必要。 |
中生(なかて)品種 | ひとめぼれ、ヒノヒカリ | 約35日~40日 | 最も一般的なタイミング。 |
晩生(おくて)品種 | にこまる、朝日 | 約40日~45日 | 生育がゆっくりなため、開始時期も遅くなる。 |
※実際の作業計画は、地域のJA(農協)が発行する栽培ごよみや、農業改良普及センターの指導などを参考にすることをお勧めします。
中干しを行う期間は、おおむね7日~10日間程度が目安となりますが、これも天候に大きく左右されます。梅雨の時期と重なることが多いため、天気予報をこまめに確認し、田んぼの土の乾き具合を見ながら柔軟に調整する必要があります。
中干しを始めるのが早すぎると?
「早めに中干しをすれば、より効果的なのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。適切な時期より早く中干しを始めると、かえって収穫量の減少に直結する深刻なデメリットがあります。
最も大きな問題は、収穫量に直接結びつく穂の数、すなわち有効な茎の数(有効茎数)を確保できなくなることです。稲は、田植え後に「分げつ」を繰り返して茎の数を増やしていきますが、この分げつがまだ活発な「有効分げつ期」に土壌を乾燥させてしまうと、その後の分げつが強制的に停止してしまいます。
その結果、目標としていた穂の数を確保できなくなり、田んぼ全体として収穫量が大幅に減ってしまうのです。中干しは、あくまで「もうこれ以上は茎は要りません」という状態になってから始めるのが鉄則です。
【最重要】幼穂形成期との重複は絶対に避けること!
特に致命的なのが、稲の穂の赤ちゃん(幼穂)が茎の中で作られ始める「幼穂形成期(ようすいけいせいき)」に中干しをしてしまうことです。この時期は、稲の生涯で最も水を必要とする極めてデリケートな時期です。もし、このタイミングで水不足の状態にしてしまうと、幼穂の成長が阻害され、穂が小さくなったり、籾の数が減ったりするなど、回復不可能なダメージを受ける可能性があります。中干しは、必ず幼穂形成期が始まる前(出穂の約30日前)までには完了させるように計画してください。
このように、中干しは「早ければ良い」というものではなく、稲の生育ステージを正確に見極めた上で、適切なタイミングで開始することが何よりも重要です。
稲の生育を促すガス抜きの効果

中干しの重要な役割の一つに、土壌中に溜まった有害ガスを抜き、新鮮な空気を供給する「ガス抜き」の効果があります。
水を張った田んぼの土の中は、常に酸素が不足している「還元状態」です。このような環境では、土の中の有機物(ワラなど)が分解される過程で、メタンガスや硫化水素といった、稲の根にとって有害なガスが発生します。これらのガスが土壌に充満すると、根の呼吸を阻害し、活動を著しく低下させ、ひどい場合には根を傷つけて栄養吸収を妨げる「根腐れ」の直接的な原因となります。
そこで中干しを行うと、田面の水がなくなり、土が徐々に乾いていきます。すると、土の表面に細かいひび割れができ、その隙間から土の奥深くまで空気が入るようになります。この空気(酸素)の供給によって土壌が「酸化状態」に変わり、土壌中に溜まっていた有害ガスが大気中に放出されるのです。
この効果は、稲の健康だけでなく、環境問題の観点からも注目されています。農林水産省の発表によると、中干し期間を従来より1週間程度延長することで、温室効果ガスであるメタンの発生量を約30%削減できるとされており、地球温暖化対策への貢献も期待されています。
ガス抜きによる土壌内の好循環
有害ガスが抜けて新鮮な酸素が供給されると、土壌環境は劇的に改善されます。根は健康な呼吸を取り戻し、養分を吸収する活動が再び活発になります。また、酸素を好む有益な微生物の活動も盛んになり、土壌がより豊かになります。活発になった根は、養分や水分をさらに効率的に吸収できるようになり、稲全体の生育が促進されるという好循環が生まれるのです。目には見えにくい土の中の変化ですが、このガス抜きが美味しいお米作りを支える重要な科学的ポイントです。
つまり、中干しは稲の根がのびのびと深呼吸できる快適な環境を整えてあげるための、稲作に不可欠な作業であると言えます。
「田んぼの中干しをしないとどうなる」を避ける正しい知識
- 正しい中干しのやり方と手順
- 中干しをやめる水管理の目安
- 根腐れを防ぐ土台作りのポイント
- 中干し後に肥料をまくとどうなる?
正しい中干しのやり方と手順
中干しの効果を最大限に引き出すためには、正しい手順を踏むことが大切です。ここでは、基本的なやり方を4つのステップに分け、それぞれのポイントを詳しく解説します。
手順1:落水(らくすい)
まず、田んぼに水を供給している水口(みなくち)をしっかりと閉め、排水口を開けて田んぼの水を完全に抜きます。この作業を「落水」と呼びます。水がスムーズに抜けるように、あらかじめ排水口の周りの泥や雑草を取り除いておくと良いでしょう。土壌のタイプにもよりますが、通常は1~2日程度で水が抜けます。
手順2:土壌の乾燥
落水後、天候にもよりますが、7日~10日間ほどかけて田面の土を乾燥させます。目標は、田んぼの表面に細かいひび割れ(ヘアークラック)が入り、長靴で歩いても少しへこむ程度の硬さです。このひび割れが、土壌に酸素を送り込み、ガス抜きを行うための重要な通路となります。粘土質の田んぼは乾きにくいですがひびが入りやすく、砂質の田んぼは水はけが良いですがひびが入りにくいなど、ご自身の田んぼの土の特性を理解しておくことが大切です。
手順3:溝切り(みぞきり)
落水をスムーズにし、その後の水管理を容易にするために「溝切り」という作業を行います。これは、田んぼの中に深さ15~20cm程度の溝を掘る作業で、専用の機械(溝切り機)を使って行います。中干しで土がある程度乾き、機械が走行できる状態になってから行うのが一般的です。この溝があることで、中干し後の再入水も田んぼ全体にムラなく素早く行き渡らせることができますし、その後の水管理も格段に楽になります。
溝切りの重要なメリット
- 排水性の向上:大雨が降った際にも速やかに排水でき、根腐れを防止します。
- 通気性の確保:溝を通じて土壌深くまで酸素が供給されやすくなります。
- 水管理の効率化:再入水や間断かんがいがスムーズかつ均一に行えます。
- 田面の均一な乾燥:水たまりができにくくなり、田面がムラなく乾きます。
手順4:期間の管理と終了判断
中干しの期間は、あくまで目安です。最も重要なのは、田んぼの土の乾き具合と稲の葉の様子を毎日観察し、柔軟に対応することです。例えば、猛暑で乾燥が激しい日が続く場合は、稲が過度な水分ストレスを受けないよう、予定より早めに7日程度で切り上げる判断も必要です。逆に雨が多くてなかなか乾かない場合は、10日以上かかることもあります。期間に固執せず、稲と対話するように状態を見極めることが成功の鍵です。

中干しをやめる水管理の目安
中干しは、ただ長く乾かせば良いというものではありません。乾燥させすぎると、土が固くなりすぎて根が傷んだり、再入水した際に水が浸透しにくくなる「撥水(はっすい)」現象が起きたりします。適切なタイミングで中干しを終了し、再び水を入れる(入水する)ことが重要です。
中干しをやめる最適な目安は、「田面の土にうっすらと亀裂が入り、人が歩いても足跡が軽くつく程度」の状態です。この状態を客観的に判断するために、以下の比較表を参考にしてください。
状態 | 土の様子 | 稲の葉の様子 | 判断と対応 |
---|---|---|---|
良い状態(終了の目安) | 田面に細かいひび割れが見える。長靴で歩くと、くるぶしが沈まない程度に軽く足跡がつく。 | 葉色がやや濃くなり、日中は少し葉が巻くことがあるが、夕方には元に戻る。 | この状態になったら、中干しを終了して再び水を入れ始めます。これを「湛水」または「再入水」と呼びます。 |
乾かしすぎ | 大きな亀裂が入り、土がカチカチに固まっている。歩いてもほとんど足跡がつかない。 | 葉が細く巻いたままになり、葉先が枯れ始める。株全体がぐったりしている。 | 乾燥させすぎです。根が深刻なダメージを受けている可能性があります。すぐに水を入れてください。 |
乾燥不足 | ひび割れがほとんど見られない。歩くと足が深く沈み、ぬかるんでいる。 | 葉の色や形にほとんど変化がない。 | まだ中干しが不十分です。中干しの効果が得られていないため、天候を見ながらもう少し乾燥させる期間を設ける必要があります。 |
再入水する際は、一度に満水にするのではなく、最初は浅く水を入れ、徐々に通常の水位に戻していくと、稲への負担が少なくなります。中干し後は、稲が水を盛んに吸収するため、こまめな水管理が求められます。

根腐れを防ぐ土台作りのポイント
中干しは、稲作における最大の敵の一つである「根腐れ」を未然に防ぎ、丈夫な稲を育てるための土台作りにおいて、極めて重要な役割を担っています。
根腐れの直接的な原因は、前述の通り、土壌中の酸素不足とそれに伴う硫化水素などの有害ガスの発生です。中干しは、この根本原因を物理的に解決するための最も効果的な手段と言えます。
重要なポイントは、「根が酸素を求めて自ら地中深くまで伸びていかざるを得ない環境」を意図的に作ってあげることです。中干しによって地表近くが乾燥すると、稲の根は水分と酸素を求めて、まだ湿り気のある土壌の奥深くへと必死に伸びていこうとします。このプロセスを通じて、地中深くまでしっかりと根を張った、力強い根群(こんぐん)が形成されるのです。
深く広く張った根は、高層ビルを支える頑丈な基礎杭のようなものです。この基礎がしっかりしているからこそ、その後の生育期にたくさんの栄養を効率よく吸収し、台風のような強い風にも負けない丈夫な体を維持できるのです。健康な根を育てることが、美味しいお米作りの全ての基本だと言っても過言ではありません。
逆に、中干しをせずに常に水がある安楽な状態だと、根は努力を怠り、地表近くにしか広がりません。このような浅い根は、少しの日照りや病害虫など、わずかな環境の変化にも弱い、ひ弱な稲になってしまいます。中干しという適度なストレス(試練)を与えることが、結果的に稲をたくましく育て、根腐れに強い健康な状態を作り出すのです。
中干し後に肥料をまくとどうなる?

中干しが終わった後の追肥(ついひ)は、お米の収量と食味を決定づける、稲作のクライマックスとも言える重要な作業です。この時期に与える肥料は、特に稲の穂の生育を助けることから「穂肥(ほごえ)」と呼ばれます。
中干しを行うことで、土壌環境が改善され、稲の根は地中深くに張り巡らされ、活動が非常に活発になっています。この状態は、人間で言えば「基礎トレーニングを終えて栄養吸収効率が最大になったアスリート」のようなものです。そのため、中干し後にまいた肥料は、稲に無駄なく効率的に吸収され、その効果を最大限に発揮します。
穂肥の主な目的は、お米の「数」と「大きさ」を確保することです。
- 穂肥(1回目):出穂の約25日前に施用。穂の長さや、1つの穂に付く籾の数(籾数)を増やす効果があります。
- 実肥(2回目):出穂の約15日前に施用。米粒を大きく、中身を充実させる(登熟を良くする)効果があります。
適切なタイミングで適切な量の穂肥を施用することで、収量が増えるだけでなく、粒ぞろいの良い高品質なお米を作ることができます。地域のJA(農協)では、その年の気候や稲の生育状況に応じた詳細な施肥設計を指導していますので、ぜひ参考にされることをお勧めします。(参照:JA全農「営農支援」)
穂肥の注意点と施肥の考え方
穂肥は非常に重要ですが、与えすぎは禁物です。特に窒素(N)成分が多すぎると、稲の茎や葉ばかりが茂りすぎて倒伏の原因となったり、お米のタンパク質含有量が高くなりすぎて食味が低下したりすることがあります。肥料の種類や量は、稲の葉の色(葉色)を観察したり、専用の診断機器を使ったりして、稲の栄養状態を正確に把握した上で調整することが大切です。迷った場合は、必ず地域の農業改良普及センターなどの専門機関に相談してください。
このように、中干しは土壌と根を最高の状態に整える準備期間であり、その後の穂肥の効果を倍増させ、一年間の努力を結実させるための重要な布石となるのです。
田んぼの中干しをしないとどうなるか再確認
この記事で解説してきたように、中干しは美味しいお米を安定して収穫するために不可欠な、先人の知恵が詰まった工程です。最後に、田んぼで中干しをしない場合にどうなるか、その重要性をリスト形式で再確認しましょう。
- 中干しは稲の生育途中で田んぼの水を抜き土壌環境をリセットする作業
- 主な目的は無駄な茎が増えすぎるのを抑え栄養を穂に集中させること
- 根を地中深くにしっかりと張らせ倒伏に強い稲を育てる効果がある
- 土の中に溜まった有害ガスを抜き新鮮な酸素を供給する役割を持つ
- 中干しをしないと根が浅くなり少しの風雨でも稲が倒れやすくなる
- 根腐れや病害虫が発生しやすく生育不良の原因になる
- 最終的な収穫量やお米の品質が著しく低下するリスクがある
- ぬかるんだ地盤は収穫作業の効率を悪化させ経済的損失につながる
- 最適な時期は田植え後30日から40日頃が目安
- 株の茎数が目標の8割から9割に達したタイミングで開始するのが鉄則