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米農家は儲からないは嘘?9割赤字の理由と稼ぐ方法を解説

「米農家は儲からない」という言葉を耳にすることが多いですが、その実態はどうなっているのでしょうか。確かに、多くのデータが米農家の厳しい経営状況を示しており、その稼げない理由として生産コストの上昇や低い販売価格が挙げられます。しかし、一方でその話は嘘だという声や、工夫次第で年収1000万を目指せるという意見も存在します。実際のところ、10町規模の年収はどれくらいで、他の農業と比較した年収ランキングでの立ち位置はどうなのでしょうか。また、経営を支える補助金の現状や、このまま米農家の減少が続くとどうなるのか、という懸念もあります。中には「もうやめたい」と限界を感じる農家もいる一方で、このままでは日本から米なくなるのではないかという食料安全保障の問題も浮上しており、国や農家自身による対策が急がれています。この記事では、これらの複雑な問題を多角的に分析し、「米農家は本当に儲からないのか?」という疑問に徹底的に迫ります。

  • 米農家が儲からないと言われる構造的な理由
  • 会計上赤字でも経営が成り立つカラクリ
  • 米農家の減少が日本の食料安全保障に与える影響
  • これからの米農家が収益を上げるための具体的な戦略
目次

データで見る「米 農家 儲から ない」の構造

  • 構造的な問題が米農家で稼げない理由
  • 9割赤字という数字は嘘なのか?
  • 多くの農家がやめたい 限界と感じる現状
  • 他の農業と比較した米農家の年収ランキング
  • 経営を左右する補助金の仕組みと実態

構造的な問題が米農家で稼げない理由

米農家が儲からないと言われる背景には、根深い構造的な問題が存在します。結論から言うと、「生産コストの上昇」と「販売価格の伸び悩み」という2つの大きな壁が農家の経営を圧迫しているためです。

まず、生産コストの問題です。近年、農業に必要な資材価格は軒並み高騰しています。具体的には、肥料、農薬、燃料、そしてトラクターやコンバインといった農業機械の価格が上昇し続けており、これらが農家の経営に重くのしかかっています。産直通販サイト「食べチョク」が2025年5月に行った調査では、コスト上昇に「苦しい」と感じる米農家は実に90%にものぼりました。

主な上昇コストの内訳

食べチョクの調査によると、米農家が特に負担に感じているコストは以下の通りです。

  • 農機具価格:更新や修理にかかる費用が増大。
  • 燃料費:トラクターなどを動かすための軽油価格が高騰。
  • 肥料代:化学肥料の原料価格が世界的に上昇。

これらのコストは農家側でコントロールすることが難しく、利益を直接的に圧迫する大きな要因となっています。

一方で、生産コストが上がっているにもかかわらず、米の販売価格は長年伸び悩んできました。多くの農家は収穫した米をJA(農協)や卸売業者に出荷しますが、その際の取引価格(相対取引価格)がJA側の意向で低く抑えられてきた歴史があります。2024年からの米不足で価格は高騰したものの、それまでは米60kgあたり1万2,000円〜1万5,000円程度で推移しており、この価格ではコストを賄えない農家が大多数でした。

さらに、国の減反政策も大きな影響を与えています。これは米の供給過剰を防ぎ、価格を安定させるための政策ですが、結果として国内の生産量そのものを減少させてきました。JAと農林水産省は需要が毎年減少するとの見込みで減反を推進した結果、生産基盤が弱体化し、いざ不作や需要増が起きると深刻な米不足と価格高騰を招くという、不安定な状況を生み出しているのです。

つまり、入口(コスト)は高くなる一方なのに、出口(販売価格)は上がりにくいという、非常に厳しい構造の中で米農家は経営努力を続けているのが実情です。これが「頑張っても儲からない」と言われる最大の理由と言えるでしょう。

9割赤字という数字は嘘なのか?

「米農家の95%は赤字経営」という衝撃的なデータがあります。これは農林水産省の統計などに基づいたもので、会計上の数字としては事実です。しかし、この言葉だけを捉えて「ほとんどの米農家は生活できていない」と考えるのは早計かもしれません。実は、会計上の赤字と経営の実態には少し乖離があり、「9割赤字」は嘘ではないものの、実態を正確に表していない側面があります。

では、なぜ赤字でも多くの農家は米作りを続けているのでしょうか。それには主に2つの経済合理的な理由が存在します。

1. 兼業農家の節税メリット(損益通算)

日本の米農家の多くは、農業以外の仕事を持つ兼業農家です。彼らは会社員などとして得た給与所得があります。農業経営で赤字が出た場合、その赤字分を給与所得から差し引いて確定申告することができます。これを「損益通算」と呼びます。

損益通算の仕組み
例えば、給与所得が500万円あり、米作りで100万円の赤字が出たとします。この場合、課税対象となる所得は「500万円 – 100万円 = 400万円」となります。所得が低くなるため、結果的に支払う所得税や住民税が安くなるのです。つまり、<b.農業の赤字が節税につながっているという側面があります。

2. 自家消費分のお米を安く確保できる

もう一つの大きな理由は、自分で食べるお米を市場価格よりはるかに安く手に入れられる点です。零細な規模の農家にとって、米作りは販売して利益を出すことだけが目的ではありません。

三菱総合研究所の分析によると、自分で米を作った場合の赤字額と、米作りをやめてスーパーなどで米を購入する場合の支出額を比べると、多くの場合で自分で作った方が支出(赤字)は少なくて済みます

米作りを続けるか否かの家計比較(例)
選択肢 状況 家計の支出(赤字)
自分で米を作る 生産コスト1万5000円、販売価格1万円の場合 5,000円の赤字
米作りをやめて購入する 農地を貸して地代2000円を得て、小売価格1万3000円の米を買う場合 11,000円の支出

この表のように、赤字であっても自分で作った方が家計全体の負担は軽くなるのです。「米作りの赤字」を「お米の購入代金」と捉えれば、スーパーで買うよりも圧倒的に安くお米を確保できるというわけです。

このように、多くの小規模・兼業農家は「利益を追求する事業」としてだけでなく、「節税」や「食費の節約」といった経済的なメリットを享受するために米作りを続けています。ですから、「9割が赤字」という数字だけを見て、米農家全体が破綻寸前だと判断するのは、少し実態とは異なるのです。

多くの農家がやめたい 限界と感じる現状

前述の通り、会計上の赤字でも経営を続ける合理的な理由はあるものの、それが農家の厳しい現実を覆い隠すものではありません。実際、多くの米農家が経営の苦しさから「もうやめたい」と限界を感じているという深刻なデータが報告されています。

産直通販サイト「食べチョク」が実施した調査では、生産コストの上昇に対して90%の生産者が「経営が苦しい」と回答。そのうち、「廃業を考えるほど苦しい」と答えた生産者は13.1%にものぼりました。これは、7軒に1軒近くの農家が、いつ農業をやめてもおかしくないほどの瀬戸際に立たされていることを示しています。

農家が「限界」と感じる複合的な要因

農家が直面している困難は、単純な赤字問題だけではありません。以下のような複数の要因が複雑に絡み合っています。

  • 終わらないコスト高騰:前述の通り、肥料や燃料などの価格上昇に歯止めがかからず、利益を確保することが年々難しくなっています。
  • 収入の不安定さ:農業は天候に大きく左右されるため、豊作・不作によって収入が大きく変動します。安定した生活設計が立てにくいという悩みがあります。
  • 後継者不足と高齢化:儲からない、きついというイメージから若い世代が就農を敬遠し、農家の高齢化が深刻化。地域農業の維持管理も困難になっています。
  • 理不尽な批判:2024年の米不足のように、供給量が減って価格が上がると、事情を知らない消費者から「儲けすぎだ」と批判されることがあります。「米を食べてくれなくて困っていたのに、価格が上がると文句を言われる」という、農家の偽らざる本音も聞かれます。

広島県で50年以上米作りを続ける70代の男性農家は、「米作りは儲からない。代々受け継いだ土地で農業をするという使命感でしかない」と語ります。彼のケースでは、50a(約5反)の田んぼで年間60万円ほどの売上にしかならず、米作りだけでは到底生活できないのが現実です。

このように、経済的な合理性だけで続けられるほど、現場は甘くありません。日々の経営努力が報われにくい構造、将来への不安、そして時に向けられる理不尽な声。これらが積み重なり、多くの農家が心身ともに限界を感じているのが、日本の米作りの偽らざる現状なのです。

他の農業と比較した米農家の年収ランキング

「米農家は儲からない」というイメージをより客観的に理解するために、他の農業分野と比較して所得がどのくらい違うのかを見てみましょう。農林水産省が公表している経営統計データは、その実態を知る上で非常に参考になります。

結論から言うと、稲作(米作)経営の所得率は、他の多くの農業分野、特に施設野菜や畜産と比較して低い傾向にあります。これは、米が土地利用型農業であり、天候リスクや価格政策の影響を直接受けやすいためです。

主業農家1経営体当たりの農業所得(2020年)
営農類型 農業所得 特徴
施設野菜作 約733万円 ビニールハウスなどで栽培。天候の影響を受けにくく、年間を通じて安定した生産が可能。
酪農 約1,568万円 初期投資が大きいが、牛乳は毎日生産され、価格も比較的安定している。
畑作(露地野菜など) 約528万円 施設野菜よりは天候リスクがあるが、多様な品目を栽培できる。
稲作(水田作) 約364万円 作付面積に所得が大きく依存。価格が国の政策に左右されやすい。

(参照:農林水産省「2020年農業経営統計調査」より作成)

上の表からも分かるように、稲作の農業所得は施設野菜の約半分、酪農の4分の1程度にとどまっています。もちろん、これはあくまで平均値であり、大規模な稲作農家や、ブランド米の生産・直販で成功している農家はこれ以上の所得を得ています。

所得率が低くなる理由

稲作の所得率が他の分野に比べて低くなりやすいのは、以下のような理由が考えられます。

  • 収穫が年に一度:多くの地域では収穫が秋の1回のみであり、キャッシュフローが悪化しやすい。
  • 価格決定への関与が難しい:多くがJAや卸売業者を介して販売するため、農家自身が価格をコントロールしにくい。
  • 規模の経済が働きにくい:日本では農地が細分化されており、大規模化によるコスト削減が難しい地域が多い。

ただし、このデータはあくまで「農業所得」の比較です。前述の通り、米農家は兼業が多く、農業以外の所得を含めた世帯全体の所得では、必ずしも他の農家より低いとは限りません。とはいえ、「農業単体でどれだけ稼げるか」という視点で見ると、米作りは他の農業分野に比べて厳しい環境にあることは、データからも明らかと言えるでしょう。

経営を左右する補助金の仕組みと実態

日本の米農家の経営を語る上で、国の補助金(交付金)の存在は決して無視できません。結論を言えば、現在の米農家の多くは、補助金なしでは経営が成り立たないという実態があります。これは、国の農業政策が農家の所得に直接的な影響を与えていることを示しています。

食べチョクの調査では、2024年の経営状況について、「補助金を含めると黒字」と答えた農家が32.6%にのぼりました。これは、裏を返せば、3軒に1軒の農家が自らの売上だけでは赤字であり、補助金によってようやく黒字を確保できているという現実を浮き彫りにしています。

なぜ補助金が重要なのか?

米農家にとって特に重要なのが、「水田活用の直接支払交付金」です。これは、主食用の米だけでなく、飼料用米や麦、大豆、野菜など、国が戦略的に生産を増やしたい作物(転作作物)を水田で作付けした農家に対して交付されます。

この制度の目的は、主食用米の作りすぎ(供給過剰)を防いで米価の暴落を避けることと、日本の食料自給率を向上させることです。農家は、主食用米を作るよりも、補助金がもらえる転作作物を作った方が、結果的に安定した収入を得られる場合が少なくありません。

会計ソフトメーカーのソリマチが行った調査分析でも、興味深いデータが示されています。販売額が少ない小規模な稲作経営でありながら、所得率が非常に高い農家が存在し、その収入の内訳を見ると、売上の半分以上が補助金などを含む「雑収入」で占められていました。これは、農産物の販売利益で稼ぐのではなく、国の政策をうまく活用することで所得を確保している経営スタイルと言えます。

補助金に依存する経営のリスク

補助金は農家の経営を安定させるセーフティネットとして機能している一方で、大きなリスクもはらんでいます。

それは、国の政策変更によって、ある日突然、収入が大きく減少する可能性があるという点です。補助金制度が見直されたり、交付額が削減されたりすれば、それに依存してきた農家の経営は一気に立ち行かなくなる恐れがあります。実際に、これまでも政策の変更は繰り返されており、農家は常にその動向に気を配らなければなりません。

このように、補助金は多くの米農家にとって生命線であると同時に、国の政策に経営の根幹を委ねるという不安定さも抱えています。自立した強い農業経営を目指す上では、補助金だけに頼るのではなく、自らの力で収益を上げる努力が不可欠と言えるでしょう。

米農家 儲からない状況がもたらす未来

  • 目指せる?米農家で年収 1000万への道
  • 規模で見るリアルな10町 年収の目安
  • 米農家が減るとどうなる?食卓への影響
  • このままでは日本に米がなくなる日は来るのか
  • 現状打破の鍵となる米農家の減少 対策
  • まとめ:「米農家 儲からない」は変えられる

目指せる?米農家で年収 1000万への道

「米農家は儲からない」という厳しい現実がある一方で、工夫と戦略次第で年収1000万円という高い所得を実現している農家も存在します。ただし、それは従来のやり方を踏襲するだけでは極めて困難です。成功への道筋は、「規模拡大」「高付加価値化」「販路開拓」という3つのキーワードに集約されます。

1. 規模拡大による効率化

最も分かりやすい道は、経営規模を拡大することです。農林水産省のデータを見ても、作付面積が20ha(ヘクタール)以上の経営体では、農業所得が平均で1,200万円を超えています。規模を大きくすることで、大型機械を効率的に使え、単位面積あたりのコストを大幅に削減できるためです。

ただし、やみくもな拡大は禁物です。労働力や機械の能力、地域の農地状況などを冷静に分析し、「できる範囲」で着実に規模を広げていくことが重要になります。

2. 高付加価値化と販路開拓

規模拡大が難しい場合でも、収益を上げる道はあります。それが、付加価値の高い米を作り、JAや卸売業者を通さずに消費者に直接販売する「直販」です。

例えば、千葉県で新規就農した「TACHI FARM」さんは、JAなどへの卸販売だけでは儲からないと考え、インターネットでの販売に活路を見出そうとしています。楽天市場やAmazon、自社サイトなどを活用し、JAを通すよりも高い利益率での販売を目指しています。

直販のメリットは、価格を自分で決められることだけではありません。顧客からの口コミやフィードバックが直接得られるため、ファン(リピーター)を作りやすく、安定した収益につながる可能性があります。

3. スマート農業と多角化

最新技術を活用した「スマート農業」も、収益向上に大きく貢献します。ドローンによる農薬散布や、センサーによる水管理、自動運転トラクターなどを導入することで、作業を効率化し、労働コストを削減できます。初期投資はかかりますが、国や自治体の補助金を活用することも可能です。

また、米作りは春と秋が繁忙期であり、オフシーズンが比較的長いです。その期間を活用して、WebライティングやYouTubeなど、農業以外の収入源を持つ「多角経営」も、リスク分散の観点から有効な戦略と言えるでしょう。

年収1000万円は決して簡単な目標ではありません。しかし、これらの戦略を組み合わせ、常に学び、変化に対応していく姿勢があれば、米農家として高い収益を上げることは十分に可能なのです。

規模で見るリアルな10町 年収の目安

米農家の収入を考える上で、「経営規模」は最も重要な要素の一つです。では、具体的な規模ごとに年収(農業所得)はどのように変わってくるのでしょうか。ここでは、日本の農家でよく使われる面積の単位「町(ちょう)」(1町=約1ha)を用いて、リアルな年収の目安を見ていきましょう。

三菱総合研究所が農林水産省のデータを基に算出したモデルケースによると、規模による収益性の違いは歴然としています。

米農家の経営規模別の推定所得(60kgあたり1万2000円で販売と仮定)
経営規模の通称 面積 推定所得 経営実態
昭和的一般農家 約0.35ha (3.5反) 赤字 所得ベースでも赤字。兼業収入での補填や節税が前提。
平成的兼業農家 約1.7ha (約1.7町) 約23万円 400時間の労働に対し所得はわずか。農業だけで生活するのは困難。
平成的専業農家 約17ha (約17町) 約767万円 家族経営で十分に生活できる水準。専業農家の一つの目安。
令和的大規模農家 30ha (30町) 以上 1,000万円以上 法人化し、従業員を雇用して経営するレベル。高い収益性が見込める。

このデータから分かるように、職業として農業だけで生計を立てるには、少なくとも15ha(15町)以上の規模が一つの目安となります。10ha(10町)未満の経営では、コストが売上を上回る、いわゆる「赤字」状態になりがちです。

10町(10ha)の壁

「10町」という規模は、米農家にとって一つの大きな壁と言えます。10ha未満の農家は、農家数で全体の95%を占めていますが、米60kgあたりの生産コストが平均で1万2,000円を超えてしまい、一般的な卸売価格では利益が出にくい構造になっています。

もちろん、これはあくまで平均的なモデルケースです。直販で高く売る、あるいは補助金を活用するなどして、10町未満でも黒字化している農家はいます。しかし、一般的に言えば、規模が小さいほど収益を上げるのが難しい、というのが米農家の現実なのです。

米農家が減るとどうなる?食卓への影響

「米農家が儲からない」という問題は、単に農家の生活だけの話にとどまりません。米農家の減少は、私たちの食生活や社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。では、具体的にどのようなことが起こるのでしょうか。

最も直接的な影響は、「お米の価格高騰」と「供給不安」です。

2024年に起きた米不足と価格高騰は、その予兆と言えるかもしれません。この時、米の在庫は近年にない低水準となり、スーパーの店頭からお米が消え、価格が急騰しました。農林水産省は猛暑の影響などを理由に挙げましたが、多くの専門家は、根本的な原因は長年続いた減反政策による国内生産量の減少にあると指摘しています。

生産基盤の弱体化が招くリスク

米農家が減るということは、日本の米作りを支える生産基盤そのものが弱くなることを意味します。これにより、以下のようなリスクが高まります。

  • 価格の乱高下:国内の生産量が少ないと、少しの天候不順や需要の増加で需給バランスが崩れ、価格が大きく変動しやすくなります。
  • 食料自給率の低下:主食である米の生産が減れば、日本の食料自給率はさらに低下します。現在、日本のカロリーベースの食料自給率は38%程度(2022年度)と低迷しており、これ以上下がることは避けたい状況です。
  • 食料安全保障の危機:もし世界的な紛争やパンデミックなどで海外からの食料輸入が途絶えた場合、国内に十分な生産力がなければ、国民の食を賄うことができなくなります。これは国の安全保障に関わる重大な問題です。

さらに、米農家の減少は地方の衰退にもつながります。田んぼは、水を蓄え、洪水を防ぎ、多様な生き物の住処となるなど、多面的な機能を持っています。農家がいなくなり、田んぼが耕作放棄地として荒れてしまうと、これらの機能が失われ、地域の環境や景観が悪化してしまうのです。

つまり、米農家の減少は、私たちの財布を直撃するだけでなく、国の食料安全保障を脅かし、美しい田園風景を失わせることにもつながる、社会全体の問題なのです。

このままでは日本の米がなくなる日は来るのか

米農家の減少と生産基盤の弱体化が進む中で、「このままでは、いつか日本でお米が食べられなくなる日が来るのではないか」という不安の声が聞かれます。結論から言うと、明日や明後日に日本から米が完全になくなるという可能性は極めて低いです。しかし、何の対策も講じなければ、将来的に深刻な食料危機に陥るリスクは決してゼロではありません

現在、日本にはいくつかのセーフティネットが存在します。

  • 政府備蓄米:国は、不測の事態に備えて一定量のお米を備蓄しています。
  • 輸入米:国際的な取り決め(ミニマム・アクセス)により、毎年一定量の外国産米を輸入しています。

これらの存在により、短期的に国内生産が落ち込んでも、すぐに食卓からお米が消えることはないでしょう。しかし、これはあくまで一時しのぎに過ぎません。

潜在的な危機の本質

本当の危機は、国内の米生産能力そのものが失われてしまうことです。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏は、日本の米作りが抱える根本的な問題を厳しく指摘しています。

世界のコメ生産量が過去60年で3.5倍に増加したのに対し、日本は補助金を出して生産を抑制する「減反政策」を続けた結果、生産量を4割も減少させました。この政策が、農家の生産意欲を削ぎ、技術革新を停滞させ、生産性の低い零細な兼業農家を温存する結果につながったと分析されています。

もしこのまま生産者が減り続け、田んぼが荒廃してしまえば、いざ食料危機が起きて「増産しよう」と思っても、すぐには元に戻せないのです。一度失われた生産基盤を回復するには、長い年月と莫大なコストがかかります。

海外からの輸入に頼ることもできますが、世界的な人口増加や異常気象、国際情勢の不安定化により、将来にわたって安定的にお米を輸入できる保証はどこにもありません。むしろ、輸出国が自国民を優先して輸出を制限する「食料ナショナリズム」が台頭するリスクも高まっています。

「日本から米がなくなる日」。それは遠い未来のSF話ではなく、私たちが今、真剣に向き合うべき現実的なリスクなのです。国内の生産力を維持・強化していくことこそが、この危機を回避する唯一の道と言えるでしょう。

現状打破の鍵となる米農家の減少 対策

米農家の減少という深刻な事態を食い止め、日本の米作りを持続可能なものにするためには、どのような対策が必要なのでしょうか。現状を打破する鍵は、「国の政策転換」と「農家自身の経営革新」という両輪を力強く回していくことにあります。

1. 国の政策転換:減反から増産・輸出へ

多くの専門家が指摘するのが、長年続いた減反政策の抜本的な見直しです。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏は、減反を廃止し、日本の米作りを「増産・輸出」へと舵を切るべきだと提言しています。

政策転換の具体的な提案
  • 減反の廃止:補助金で生産を抑制するのではなく、自由に作付けできるようにする。
  • 直接支払いへの転換:米価を市場原理に任せる代わりに、農家の所得を政府が直接補償する(直接支払い)。これにより、消費者は安い米を食べられ、農家は安定した収入を得られます。アメリカやEUでは既に主流の政策です。
  • 輸出の推進:国内消費を上回る量を生産し、高品質な日本米を積極的に海外へ輸出する。平時は輸出し、有事の際にはその分を国内に回すことで、財政負担のない「無償の備蓄」として機能させます。

これらの政策が実現すれば、日本の食料自給率は向上し、農家の生産意欲も高まることが期待されます。

2. 農家自身の経営革新

国の政策転換を待つだけでなく、農家一人ひとりが経営者としての意識を持ち、収益を上げるための努力を続けることも不可欠です。新しい世代の農家からは、そのヒントとなる動きが生まれています。

例えば、新規就農者の「TACHI FARM」さんは、JA出荷だけに頼らず、インターネット販売で独自の販路を開拓しようとしています。また、スマート農業を導入して作業の効率化と省力化を図り、農業のオフシーズンには別の仕事で収入を得るなど、柔軟な発想で「儲かる米農家」を目指しています。

このように、従来のやり方にとらわれず、

  • 多様な販路の確保
  • 最新技術の活用によるコスト削減
  • 経営の多角化によるリスク分散

といった取り組みを積極的に行うことが、これからの米農家に求められる姿と言えるでしょう。国と農家が一体となって改革を進めることこそが、米農家の減少に歯止めをかける唯一の道なのです。

まとめ:「米農家 儲からない」は変えられる

「米農家は儲からない」という課題について、その構造的な理由から将来への影響、そして解決策までを多角的に見てきました。この記事で解説した重要なポイントを以下にまとめます。

  • 米農家が儲からない主な理由は生産コストの高騰と販売価格の伸び悩み
  • 統計上9割の米農家が赤字だがこれには兼業農家の節税などのカラクリがある
  • 赤字でも米作りを続けるのは自家消費分を安く確保できる経済合理性も一因
  • それでも9割の農家が経営を苦しいと感じており廃業を考える農家も少なくない
  • 米農家の所得は施設野菜や畜産に比べ低い水準にあるのが実情
  • 多くの米農家は国の補助金なしでは黒字化が難しい構造に依存している
  • 年収1000万円を目指すには規模拡大や直販、スマート農業の導入が鍵
  • 職業として成立させるには15ha(15町)以上の規模が一つの目安となる
  • 米農家の減少は米価高騰や供給不安として私たちの食卓を直撃する
  • 国内の生産基盤の弱体化は日本の食料安全保障を脅かすリスクをはらむ
  • このままでは日本から米がなくなる可能性は低いが危機感は必要
  • 対策の鍵は国の減反政策の見直しと農家の経営革新の両輪
  • 政策としては価格支持から農家への直接支払いへの転換が求められる
  • 農家自身もネット販売など多様な販路を開拓し収益性を高める努力が不可欠
  • 「米農家は儲からない」という現状は国と農家の双方の努力で変えることができる
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この記事を書いた人

36歳男性、兼業農家。「今日も田んぼと畑から」は、農業を頑張る皆様の頼れる情報ステーションを目指しています。栽培技術の向上から経営のヒントまで、幅広い情報をお届けします。運営者についてはこちらから。

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