家庭菜園で手軽に始められるニンニク栽培ですが、「楽しみにしていたら収穫前に腐ってしまった」「保存中にぶよぶよになった」という経験はありませんか。実は、にんにく栽培で腐るトラブルは、多くの人が直面する悩みの一つです。その原因は、過湿による根腐れや、特定の条件下で発生しやすい春腐病といった病気、さらには収穫や追肥のタイミングミスなど多岐にわたります。特にプランターでの栽培は、畑とは異なるいくつかの注意点があります。この記事では、大切なニンニクが腐る見分け方から、植え付け前に行うべき土壌消毒、そして病気を未然に防ぐための適切な防除時期や農薬のおすすめまで、初心者の方がつまずきやすいポイントを、一歩踏み込んで網羅的に解説します。もう失敗しないために、正しい知識を身につけていきましょう。
- ニンニクが栽培中や保存中に腐ってしまう主な原因
- 腐る前兆を見抜くための具体的なサインと見分け方
- 病気や根腐れを未然に防ぐための効果的な対策
- 収穫後に腐らせないための正しい乾燥・保存方法
にんにく栽培で腐る!考えられる原因
- 代表的な病気である春腐病の症状
- 過湿による根腐れのサインと原因
- ニンニクが腐るサインと見分け方
- 収穫時期の見極めが腐敗を防ぐ
- 追肥の時期が原因で腐ることも
- プランター栽培で腐る原因と対策
代表的な病気である春腐病の症状

ニンニクが腐る直接的な原因として、まず警戒すべきが「ニンニク春腐病」です。これは細菌によって引き起こされる病気で、その名の通り、比較的気温が低い春先(3月~5月)や、秋の植え付け後の時期に発生しやすいという特徴があります。
この病気の初期症状は、葉や、茎のように見える葉鞘(ようしょう)に暗緑色で水が染みたような病斑(水浸状病斑)が現れることから始まります。この時点では見過ごしてしまうことも少なくありません。しかし、病状が進行すると病斑は急速に拡大し、株全体が褐色に変色しながら、やがてドロドロに軟化して腐敗してしまいます。一度発症すると、その株を救うことは困難です。
よく似た症状を持つ病気に「軟腐病」がありますが、こちらは腐敗の際に強烈な悪臭を放つのに対し、春腐病は悪臭を伴わない場合が多いです。これが一つの見分けるポイントとなります。
春腐病の感染経路と拡大のメカニズム
春腐病の病原菌は土壌中に生息しており、主に雨水が土を跳ね上げて茎葉に付着したり、土寄せなどの農作業でできた微細な傷口から侵入します。感染した株は次なる伝染源となり、雨水などを介して周囲の健康な株へと病気を広げてしまいます。そのため、発病した株は発見次第、速やかに抜き取り、畑の外で適切に処分することが被害拡大を防ぐ上で最も重要です。特に、前年に同じ場所でネギやタマネギなど、同じネギ属の野菜を栽培していると、土壌中の菌密度が高まっている可能性があるため、より一層の注意が求められます。
長雨が続く年や、水はけが悪いジメジメとした畑では発生リスクが格段に高まるため、日頃から圃場の排水対策を心がけることが予防の第一歩です。
過湿による根腐れのサインと原因
病気と並んでニンニクが腐る二大原因とも言えるのが、生理障害である「根腐れ」です。これは病原菌が直接の原因ではなく、土壌の過湿状態が長時間続くことによって引き起こされる、いわば根の窒息状態です。
ニンニクは乾燥には比較的強いものの、その反面、多湿には非常に弱いという性質を持っています。水のやりすぎ、梅雨時期の長雨、そして畑自体の水はけの悪さなどが重なると、土の中の酸素が不足します。すると、ニンニクの根は正常な呼吸ができなくなり、養水分を吸収する能力を失い、最終的には細胞が壊死して腐ってしまうのです。
根が傷むと、その影響は地上部にもはっきりと現れます。以下のようなサインが見られたら、根腐れの危険信号です。
根腐れの初期〜中期サイン
- 下葉の変化:まず、地面に近い下葉の先から黄色く変色し始め、徐々に枯れ上がってきます。
- 生育の停滞:株全体の成長が明らかに鈍化したり、新しい葉が出てこなくなったりします。
- 葉のしおれ:土は湿っているのに、葉に張りがなく、日中にしおれている様子が見られます。
末期症状になると、株元がぐらつき、軽く引っ張るだけで簡単に抜けてしまうようになります。抜いた根は黒ずんでドロドロになっているはずです。
「植物には水が一番!」という思い込みから、土が乾く間もなく水やりを続けていませんか?ニンニクにとっては、それがかえって大きなストレスになるんです。「土の表面が白っぽく乾いたら、たっぷりと与える」という、乾湿のメリハリをつけた水管理が、健康な根を育てる秘訣ですよ。
特に、水持ちが良すぎる粘土質の土壌で栽培している場合や、プランターの受け皿に常に水が溜まっているような環境では、根腐れのリスクが極めて高くなります。畑であれば畝を通常より10cm以上高くする、プランターであれば底に軽石などの鉢底石をしっかり敷くといった、物理的な排水対策が根腐れを防止する上で非常に有効です。
ニンニクが腐るサインと見分け方

栽培しているニンニクが「もしかして腐り始めているかも?」と感じたとき、そのサインを正しく見分ける知識は非常に重要です。腐敗を初期段階で発見できれば、被害の拡大を最小限に食い止め、他の健康なニンニクを守ることにも繋がります。
栽培中の見分け方:地上部の変化に注目
ニンニクは土の中で育つため、栽培中に鱗茎(りんけい・食べる部分)の異常を直接見ることは困難です。そのため、地上部である葉や茎の変化から、土の中の状態を推測する必要があります。
- 葉の色の異常:前述の通り、根腐れや病気によって下葉から黄色く枯れ上がってくるのは危険なサインです。また、病気によっては葉に不自然な斑点やスジが現れることもあります。
- 株元の状態:株元が変色していたり、触ってみてブヨブヨと柔らかくなっていたりする場合は、地中の鱗茎に腐敗が及んでいる可能性が高いです。
怪しいと感じたら、株元を少しだけ掘り返してみてください。鱗茎の一部が茶色く変色していたり、ニンニク特有の香りではない異臭がしたりする場合は、残念ながら腐敗が始まっています。その株は速やかに撤去しましょう。
収穫後・保存中の見分け方:五感でチェック
収穫後や保存中のニンニクは、見た目、手触り、匂いという五感を使って健康状態をチェックします。
チェック項目 | 健康なニンニク | 腐っているニンニク |
---|---|---|
見た目 | 皮が白く、ハリとツヤがある。形がふっくらしている。 | 皮の一部が茶色や黒に変色。青や白のカビが発生。皮が破れ、中身がドロドロになっている。 |
手触り | 固く締まっていて、しっかりとした重みがある。 | 指で押すとフカフカ、ブヨブヨする。水分が滲み出てくる。異常に軽い。 |
匂い | ニンニク特有の食欲をそそる香り。 | 酸っぱいような発酵臭、明らかな腐敗臭。特に軟腐病は強烈な悪臭を放つ。 |
一部分の腐敗でも油断は禁物
一片だけが少し傷んでいるように見えても、腐敗は目に見えない速度で内部に進行しています。また、腐った部分から発生するエチレンガスが、周囲の健康なニンニクの劣化を早めてしまうこともあります。もったいないと感じるかもしれませんが、腐敗を見つけたニンニクは、他のものと分けて速やかに使い切るか、残念ですが処分することを推奨します。
これらのサインを見逃さず、日頃からニンニクの状態を気にかけてあげることが、長期保存を成功させるコツです。
収穫時期の見極めが腐敗を防ぐ

ニンニク栽培のクライマックスである収穫。この収穫のタイミングが、その後のニンニクの保存性を大きく左右し、腐敗のリスクに直結していることは意外と見過ごされがちです。早すぎても、遅すぎてもニンニクは腐りやすくなってしまいます。
収穫が早すぎる場合:「水っぽく」腐りやすい
まだ葉が青々としている未熟な段階で収穫すると、鱗茎は水分をたっぷりと含んだ「生もの」に近い状態です。このようなニンニクは、農林水産省のウェブサイトでも「新にんにく」として紹介されている通り、みずみずしくて美味しい反面、長期保存には全く向きません。水分が多すぎるため、乾燥させるのに時間がかかり、その過程でカビが生えたり、内部から腐敗が始まったりするリスクが非常に高くなります。
収穫が遅すぎる場合:「病気に感染し」腐りやすい
逆に収穫適期を過ぎ、枯れ上がった状態で畑に長く放置してしまうと、「裂球(れっきゅう)」という現象を引き起こします。これは、鱗茎が成長しすぎて外皮が耐えきれずに破れ、内部の鱗片がむき出しになってしまう状態です。皮というバリアを失った鱗片は、土の中に無数に存在する病原菌の格好の標的となり、直接感染してしまいます。見た目は問題なくても、内部ではすでに病原菌に侵されており、貯蔵中に腐敗が進行するという最悪のケースにつながります。
ベストな収穫タイミングの見極め方
最適な収穫時期を判断する最も確実な方法は、地上部の葉の状態を観察することです。品種や地域によって多少の差はありますが、一般的に下葉から枯れ始め、全体の半分から8割程度の葉が黄色く変色した頃が収穫のベストタイミングとされています。この頃になると、鱗茎の肥大が完了し、養分を蓄えて休眠に入る準備を始めています。
より確実を期すなら、試しに1〜2株掘り起こし、鱗茎の底(根が生えていた部分)を確認しましょう。この部分がまだ丸みを帯びていれば成長途中、きれいな円盤状に平らになっていれば、肥大が完了した収穫適期のサインです。
焦らず、騒がず、ニンニクが出すサインをじっくりと見極めて収穫することが、腐りにくく美味しいニンニクを手に入れるための重要なステップなのです。
追肥の時期が原因で腐ることも

ニンニクの成長を助けるための追肥が、実は収穫後の腐敗を招く引き金になることがあります。特に問題となるのが、栽培期間の終盤に行う最後の追肥、通称「止め肥(とめごえ)」のタイミングと種類です。
肥料の三要素である窒素・リン酸・カリウムのうち、特に注意が必要なのが「窒素(チッソ)」です。窒素は葉や茎の成長を促進する働きがあるため「葉肥え(はごえ)」とも呼ばれ、生育初期の体作りには不可欠です。しかし、鱗茎が肥大する収穫間近のタイミングで窒素分が過剰になると、様々な弊害が生じます。
収穫間際の窒素過多が引き起こす問題
- 品質の低下:鱗茎に栄養が蓄えられるべき時期に、葉ばかりが過剰に茂ってしまいます。その結果、鱗茎の締まりが悪く、水分ばかりが多い、いわゆる「水ぶくれ」状態のニンニクになりがちです。
- 病気への抵抗力低下:窒素過多で育った植物は、細胞壁が弱く、軟弱な組織になりやすいと言われています。そのため、病原菌の侵入を許しやすくなり、病気にかかるリスクが高まります。
これらの要因が複合的に絡み合い、見た目は大きくても中身が未熟で、病気に弱く、結果的に貯蔵中に腐りやすいニンニクになってしまうのです。
このため、ニンニク栽培における最後の追肥(止め肥)は、鱗茎が本格的に肥大を始める前の2月下旬から、遅くとも3月中旬までに完了させることが鉄則とされています。それ以降、特に4月や5月になってからの追肥は、腐敗のリスクを著しく高めるため、絶対に避けるべきです。適切な時期に適切な肥料を施す「肥培管理」が、品質と保存性を両立させるための鍵を握っています。
プランター栽培で腐る原因と対策
ベランダなどの限られたスペースでニンニク栽培を楽しめるプランターは非常に便利ですが、畑での地植え栽培と比較して、腐敗のリスク管理にはより一層の注意が必要です。その最大の理由は、やはり「過湿」になりやすいという点に集約されます。
プランターという限られた容器の中では、水はけが悪化しやすく、一度与えた水分が長時間滞留しがちです。これがニンニクの嫌う多湿環境を作り出し、根腐れや病気の温床となってしまいます。
プランター栽培で腐る三大原因
- プランターの容量不足:ニンニクは根を深く張る野菜です。深さが20cmに満たないような浅いプランターでは、根が底でとぐろを巻く「根詰まり」を起こし、排水性が極端に悪化します。
- 不適切な用土:例えば、一度使った古い土をそのまま再利用したり、水はけの悪い庭土をそのまま入れたりすると、土が固く締まって水が抜けず、過湿の原因となります。
- 誤った水やり:「土がまだ湿っているのに毎日水を与える」「受け皿に溜まった水を捨てずに放置する」といった行為は、根を常に水に浸しているのと同じ状態を作り出し、根腐れを直接的に引き起こします。
プランター栽培で腐らせないための鉄則
しかし、いくつかの基本的なポイントを押さえるだけで、プランター栽培での失敗は劇的に減らすことができます。以下の3点を必ず守りましょう。
-
- 適切なプランターを選ぶ:必ず深さが20cm以上、できれば25cm以上あるプランターを選びましょう。標準的な65cm幅のプランターであれば、4〜5片のニンニクを育てられます。
- 用土と鉢底石にこだわる:プランターの底には、水はけを良くするための鉢底石を2〜3cmの厚さで必ず敷きます。用土は、市販されている「野菜用培養土」を使用するのが最も手軽で確実です。これらの培養土は、水はけと水もちが最適なバランスで調整されています。
- 水やりの基本を徹底する:水やりは、「土の表面が指で触って乾いているのを確認してから、鉢底から水が勢いよく流れ出るまでたっぷりと与える」のが大原則です。そして、受け皿に溜まった水は、その都度必ず捨てる習慣をつけましょう。

これらの少しの工夫と気配りが、プランターでのニンニク栽培を成功に導き、腐敗の悩みから解放してくれます。
これで解決!にんにく栽培で腐るのを防ぐ方法
- 植え付け前の土壌消毒で病気を防ぐ
- 病気を防ぐための最適な防除時期
- 予防散布に有効な農薬のおすすめ
- 収穫後の乾燥と保存が長期保存の鍵
- にんにく栽培で腐る悩みを解決しよう
植え付け前の土壌消毒で病気を防ぐ

ニンニクが腐る原因となる病気の多くは、目に見えない土の中に潜む病原菌(糸状菌や細菌)が引き起こします。一度畑に病気が蔓延すると、数年間はその病原菌が生き残り、作付けするたびに被害に遭う可能性があります。そこで、植え付け前の「種まき」ならぬ「土づくり」の段階で、これらの病原菌の密度を減らしておく「土壌消毒」が、非常に効果的な予防策となります。
特に、前年に同じ場所でニンニク、タマネギ、ネギ、ニラといった同じネギ科の野菜を栽培した「連作」の畑では、特定の病原菌が土壌中に増殖している可能性が高いため、土壌消毒の重要性はさらに増します。
家庭菜園でも実践可能な土壌消毒法
大規模な農家で使われるような専門的な土壌消毒剤もありますが、家庭菜園レベルであれば、より安全で環境に優しい方法で土壌消毒を行うことが可能です。
夏の太陽熱を利用する「太陽熱消毒」
これは、真夏の強力な太陽エネルギーを利用して土壌を蒸し上げる、最も手軽で効果的な方法の一つです。
- 時期:気温が最も高くなる7月下旬から8月に行います。
- 準備:畑に堆肥などをすき込んでよく耕し、たっぷりと水をまいて土を湿らせます。
- 被覆:透明なビニールシート(マルチ)で畑の表面を隙間なく覆い、風で飛ばないように土でしっかりと押さえます。
- 放置:そのまま晴天が続く状態で3〜4週間放置します。ビニール内の温度は60℃以上にも達し、多くの病原菌や害虫の卵、雑草の種子を死滅させることができます。
手軽で即効性のある「熱湯消毒」
プランターの用土や、畑のごく狭い範囲を消毒したい場合に適した方法です。沸騰した熱湯を、消毒したい土壌にまんべんなく、そしてたっぷりと(土の中心部まで熱が届くように)注ぎます。やけどに十分注意しながら行い、熱湯をかけた直後にビニールシートなどで覆うと、蒸気によってさらに消毒効果が高まります。
土壌消毒後の注意点
土壌消毒は、病原菌だけでなく、植物の生育に有益な微生物にもダメージを与えてしまいます。いわば、土の中がリセットされた状態です。そのため、消毒後は植え付けの2週間ほど前になったら、完熟堆肥や腐葉土といった有機物をたっぷりとすき込み、土の中の良い微生物を補給してあげることが重要です。これにより、特定の菌だけが繁殖するのを防ぎ、バランスの取れた豊かな土壌(菌叢)を再生させることができます。
植え付け前のこのひと手間が、病気に強く、健康なニンニクを育てるための確かな土台となり、結果的に腐敗のリスクを大幅に低減させるのです。
病気を防ぐための最適な防除時期

ニンニク栽培における病気対策の成否は、「いつ防除を行うか」というタイミングに懸かっていると言っても過言ではありません。多くの病気は、一度症状がはっきりと現れてからでは、薬剤を散布しても進行を止めるのが難しくなります。人間のがん検診と同じで、病気が発生する前、あるいは発生のごく初期段階で対策を講じる「予防」こそが、最も効果的かつ効率的なのです。
そのためには、病原菌が活動しやすくなる気象条件や、ニンニク自身の生育ステージを理解し、「そろそろ危ない時期だな」と予測して先手を打つことが求められます。
「とりあえず病気が出てから考えよう」という後手後手の対応では、大切なニンニクを守りきれません。天気予報をこまめにチェックして「来週は雨が続きそうだ」と予測したり、栽培カレンダーを見て「そろそろ春腐病の時期だな」と把握したり。このように、未来を予測して動くのが、栽培上手への近道です。
主要な病気と防除タイミングの目安
ニンニクを襲う主要な病気には、それぞれ活動しやすい時期や条件があります。それに合わせた防除計画を立てましょう。
- 春腐病・軟腐病(細菌性病害):これらの病原菌は、ニンニクの茎葉にできた傷から侵入します。そのため、台風や春の嵐など、強風雨が予想される直前は絶好の予防散布タイミングです。また、追肥時の土寄せなどで茎葉に傷がつきやすいため、農作業の前後に散布しておくのも非常に効果的です。特に、気温が上がり雨量が増える3月下旬以降は、重点的な警戒期間となります。
- 灰色腐敗病(かびによる病害):この病気は、収穫後の貯蔵中に発生して大きな問題となりますが、その感染は栽培中の畑で起こっています。そのため、球の肥大が始まる3月~4月の発病初期に予防的な薬剤散布を行うことが、貯蔵中の腐敗を防ぐ上で極めて重要になります。
- さび病(かびによる病害):春先から発生し、葉に鉄さびのようなオレンジ色の斑点が現れます。光合成を妨げて生育を阻害し、ひどい場合は枯死に至ります。多湿条件で一気に広がるため、春の長雨が続く時期や、畑で最初の病斑を見つけた時点で、速やかに薬剤を散布して蔓延を防ぎます。
このように、敵(病気)の性質を知り、適切なタイミングで的確な防除を行うことで、農薬の使用回数を必要最小限に抑えながら、ニンニクを収穫まで健康に育て上げることが可能になります。
予防散布に有効な農薬のおすすめ

病気の発生を未然に防ぐ予防散布は、ニンニク栽培の成功率を大きく高める有効な手段です。ただし、家庭菜園で農薬を使用する際には、その効果とリスクを正しく理解し、安全に、そして適切に活用することが何よりも大切になります。
ここでは、ニンニク栽培で問題となる主要な病気に対して、予防効果が期待できる代表的な農薬をいくつかご紹介します。これらはあくまで一例であり、使用にあたっては必ずご自身の状況に合わせて検討してください。
農薬名 | 有効成分 | 主な対象病害 | 特徴・注意点 |
---|---|---|---|
Zボルドー・ICボルドー66D | 塩基性塩化銅 | 春腐病、軟腐病など(細菌性病害) | 古くから使われている保護殺菌剤の代表格。病原菌が植物体内に侵入するのを防ぐ予防効果に特化している。有機JAS規格(オーガニック栽培)でも使用が認められている、環境負荷の少ない農薬。 |
カセット水和剤 | カスガマイシン・銅 | 春腐病、軟腐病 | 予防効果に優れ、耐性菌(薬剤が効きにくい菌)が発生しにくいとされる。複数の有効成分が細菌の増殖を効果的に抑制する。 |
カッパーシン水和剤(カスミンボルドー) | カスガマイシン・銅 | 春腐病、軟腐病 | 高い予防効果に加え、発病のごく初期段階であれば、病気の進行を抑える治療効果も一部期待できる。ただし、基本はあくまで予防的な使用が推奨される。 |
アミスター20フロアブル | アゾキシストロビン | さび病、灰色腐敗病など(糸状菌病害) | 幅広い種類のカビ(糸状菌)に効果がある。浸透移行性があり、散布後に伸びた新しい葉にも効果が及ぶ。 |
農薬使用における絶対的な遵守事項
農薬は、農作物を病害虫から守るための重要な資材ですが、その使用は「農薬取締法」という法律によって厳しく規制されています。安全な農産物を生産し、使用者自身の健康と周囲の環境を守るため、以下の点を必ず守ってください。
- ラベルの熟読:使用前には、必ず製品のラベル(説明書)を隅々まで読み、対象作物、対象病害、希釈倍率、使用時期、総使用回数などの記載事項を正確に確認してください。
- 適用作物の確認:その農薬が「にんにく」に登録されているか、必ず確認してください。登録のない作物への使用は法律で禁止されています。
- 安全装備の着用:散布作業を行う際は、長袖・長ズボン、マスク、保護メガネ、農薬用手袋を着用し、薬剤が皮膚や目、口に直接触れないように万全の対策を講じてください。
より詳しい情報が必要な場合は、農林水産省の農薬に関するウェブサイトや、JA(農業協同組合)の営農指導員、お近くの園芸店の専門家に相談することをお勧めします。
収穫後の乾燥と保存が長期保存の鍵

栽培の努力が実り、立派なニンニクが収穫できたとしても、まだ安心はできません。収穫後の「乾燥(キュアリング)」と「保存」の工程が、そのニンニクを春先まで腐らせずに美味しく食べられるかどうかを決定づける、最後の重要な仕上げ作業となります。
収穫したてのニンニクは、約60%以上が水分と言われ、非常に傷みやすく、腐りやすい状態です。この余分な水分を、時間をかけて適切に飛ばしてあげることが、長期保存を可能にするための絶対条件です。
収穫から乾燥完了までの具体的なステップ
- 収穫日の天候を選ぶ:土が湿っていると収穫作業がしにくいだけでなく、ニンニクに付着した泥が乾燥を妨げ、病原菌の温床にもなります。最低でも2〜3日は晴天が続き、畑の土がカラカラに乾いている日を狙って収穫作業を行いましょう。
- 収穫直後に根を切り取る:収穫したら、その場ですぐにハサミや鎌を使い、鱗茎の底に生えている根をきれいに切り落とします。根を残したままだと、根が呼吸を続けることで鱗茎の養分を消耗し、結果的に鱗片が痩せてしまうのを防ぐためです。
- 葉をつけたまま吊るして乾燥:収穫後、すぐに葉と茎を切り離してはいけません。5〜10球ずつを麻ひもなどで束ね、雨が当たらず、直射日光の当たらない、風通しの良い軒下や倉庫などに吊るします。こうすることで、葉や茎に残っている水分や養分が、乾燥の過程でゆっくりと鱗茎へと移行・凝縮され、ニンニクの旨味が増すと言われています。これを「キュアリング」と呼びます。
乾燥完了のサインと見分け方
乾燥期間は、その年の天候や湿度、吊るした場所の環境によって異なりますが、おおむね3週間から1ヶ月が目安です。
- 茎の状態:茎の部分を握ってみて、水分が感じられず、完全にカラカラになっていること。
- 硬さ:鱗茎の付け根(盤茎部)に爪を立ててみて、跡がつかないくらい硬く締まっていれば乾燥完了です。
- 重さ:収穫時と比較して、全体の重量が30〜40%程度減少します。
乾燥後の正しい保存方法
完全に乾燥が終わったニンニクは、保存に適した状態です。茎を鱗茎の2〜3cm上で切り落とし、タマネギなどを入れるストッキングタイプのネットに入れ、引き続き風通しの良い冷暗所で吊るして保存します。この方法であれば、翌年の春まで品質を保つことが可能です。
収穫の喜びに浮かれることなく、最後の最後まで丁寧な作業を続けることが、一年間の努力を無駄にしないための秘訣です。
にんにく栽培で腐る悩みを解決しよう

この記事では、にんにく栽培で多くの人が直面する「腐る」という問題について、その多様な原因と、栽培の各段階で実践できる具体的な対策を詳しく解説しました。最後に、本記事の要点をリスト形式で総まとめします。このチェックリストを、あなたのニンニク栽培の成功にお役立てください。
- ニンニクが腐る主な原因は病気と過湿
- 代表的な病気は春腐病や軟腐病であり早期発見が重要
- 過剰な水やりや排水不良は根腐れを直接引き起こす
- 収穫が早すぎると水分過多で貯蔵中に腐りやすい
- 収穫が遅れると球が割れて土中の病原菌が侵入する
- 葉が全体の半分から8割ほど黄色く枯れたら収穫のサイン
- 止め肥(最後の追肥)が遅いと窒素過多で腐りやすくなる
- 止め肥は球が肥大する前の3月中旬までに必ず済ませる
- プランター栽培は過湿になりやすいため特に水はけに注意する
- 深さ20cm以上のプランターと鉢底石の使用は必須
- 予防の基本は植え付け前の土壌消毒から始まる
- 病気の防除は症状が出る前の予防散布が最も効果的
- 台風や強風雨の前後は薬剤散布の絶好のタイミング
- 使用する農薬は必ずラベルを確認し法律を遵守する
- 収穫は晴天が続く土が乾いた日に行う
- 収穫後は葉をつけたまま風通しの良い場所で乾燥させる
- 完全に乾燥させた後、ネットに入れて冷暗所で保存する
ニンニクが腐る原因は決して一つではありません。土づくりから始まり、水やり、施肥、病害対策、そして収穫後の処理まで、栽培の全工程が密接に関係しています。しかし、それぞれのポイントでなぜそうするべきなのかを理解し、適切な対策を一つひとつ丁寧に講じていけば、誰でも家庭菜園で高品質なニンニクを収穫し、長く楽しむことができます。ぜひ、今回の内容を参考にして、次回のニンニク栽培に挑戦してみてください。